第24章 予知と鎮魂
玄弥が床に切り落とされた鬼の腕を望む理由など一つしかない。
出来る限り玄弥が望んでいることを敢行させたくなどなかったが、今の風音には玄弥の望みに変わる妙案を持ち合わせていないので、胸に痛みを覚えながらも頷くしか出来なかった。
「分かりました。まずは下半身を運んでくるので、そのまま待っていて下さい。絶対、動いちゃダメですよ」
念には念を押して玄弥をその場にとどめさせ、少し先で繰り広げられている戦闘音を耳にしながら下半身を運び、上半身の傷口へと慎重に合わせて回復するまで様子を伺う。
(私がもっとしっかり覆いかぶさっていれば……玄弥さんが痛い思いしなくてすんだし、皆さんが……実弥君が悲しい思いしなかったんだ。どうして上手くいかないんだろう、どうして私は先を見てるのに上手く立ち回れない……)
「なぁ、風音。風音ってさ、顔に出やすいって……言われない?」
奥歯を噛み締め己の不甲斐なさを心の中で悔やんでいると、苦笑混じりの声が掛けられた。
声の主である玄弥へ顔を向けると、声と同じ苦笑した玄弥の顔が映し出される。
その表情は実弥のものとよく似ており、我慢していた涙がハラハラと頬を伝った。
「よく言われます。顔に出るから何考えているのかすぐに分かるって……ごめんなさい。玄弥さん、私が下手をしたばっかりに」
「やっぱり。それと風音が下手をしたんじゃないんだ。きっとあのまま庇って貰ってても、風音はかすり傷だっただろ?でもさ、咄嗟に体が動いちゃったんだ。だから自分を責めないで欲しい……あ、体くっついたみたい。ごめん、腕もらっていい?」
実弥と同様の優しさの塊である玄弥の言葉に涙はいつまでも流れてこようとするが、いつまでも泣いていては玄弥を困らせるだけであるし、何より戦闘の邪魔になってしまう。
玄弥の望みを叶えるべく涙を腕で拭い取り小さく頷き返して、打ち捨てられている鬼の腕を持ち恐る恐る差し出した。
「玄弥さん、身を呈して守ってくれてありがとうございます。今度は私が絶対に守ります。えっと……上弦の壱のこの腕、食べて体に支障をきたしませんか?その……すごく心配なんです」
「守られてばっかりだったら俺が兄ちゃんに叱られる…… 風音、食べるところなんて見ても気持ち悪いだけだから戦闘に戻って。俺は大丈夫だよ」