第24章 予知と鎮魂
(どうしよ。思ったより傷が……二の腕から手の甲までの傷が深い。……神経はどうにか生きてるけど、縫合しないと死んじゃうかも)
全身余すことなく激痛が走っているが、特に酷い痛みをもたらしているのは左の二の腕から甲にかけての深い裂傷。
先を見ていたとはいえ想像より深かった傷に、実弥と無一郎の不穏な言葉も霞んでしまうほどである。
そんな傷を、張り裂けそうな鞄の中から取り出した器具で手早く縫合している最中、風音は器用にも手を動かしながら後ろを振り返った。
「悲鳴嶼さん、これを!」
振り返った先にいたのは、今か今かと待ち望んでいた行冥。
その行冥は既に実弥たちへと足を動かしていたので、風音は器具を手から離し、袂から素早く小さな紙の包みを複数個取りだして行冥へと投げて送った。
「柊木、感謝する!」
幾つかは地面へと落ちてしまったが、幾つかを行冥はしっかりと受け取ってくれた。
それに安堵した風音は行冥が紙の包の中を飲み干したのを確認し、自身も早々に戦闘復帰出来るよう迅速に縫合を終了させる。
手を握ったり開いたりして動きを確かめるが、戦闘に支障をきたす不具合はないようで、地面に転がしていた日輪刀を拾い上げて上弦の壱や実弥たちの動きを確認した。
(私の手の届く範囲……せめてここにいる皆さんを助けるには……やっぱり鬼の先を見たい。どうしよう、どうしたらいいの?!足手まといにならず……)
眼前に広がる激戦、吐き気をもよおす程の頭痛に錯乱状態に陥る風音の頭の上に、ふわりと暖かなものが優しく触れた。
それが何かなど考えるまでもない。
風音が悩む度、涙を流す度に幾度となく触れてくれた優しい手。
実弥の手だ。
「落ち着け……考え過ぎて動けなくなっちまうなら、考えるより先に思うように好きに動いちまえ。風音は柱だァ。そのお前が思うように動いたとしても足手まといになんざならねェよ。……先に行ってんぞ」
「うん、そうだよね!もう大丈夫、夙の呼吸 肆ノ型 飄風・高嶺颪」
……先に行くと宣言して戦場へと戻ろうとした実弥を追い越し、風音は高く飛び上がって先に行ってしまった。
何となく置いてけぼりを食らったような感覚に陥ったものの、実弥は憤るどころか顔を笑みで満たした。