第24章 予知と鎮魂
「毒で苦しんでるとこ悪ィけど……苦しんでる暇なんてねェぞ!こっちのも効いてきたんじゃねェかァ?!」
今一番酷い怪我を負っているのは風音である。
しかし上弦の壱という強大な敵と攻防を繰り広げている無一郎はもちろん、実弥も怪我を負っている。
例え少量であっても血が流れ続けていることには違いなく、徐々にしかし確実に実弥の血の匂いが部屋内に満たされていっているのだ。
つまり実弥の稀少な稀血、鬼を酩酊させるほどの血の匂いが三半規管を刺激し、毒のみならずその匂いが鬼の体を更に揺らせた。
「やっぱ上弦の壱にも効くみてぇだなァ!毒と稀血、存分に味わえェ!」
(予知通り実弥君の血が上弦の壱に効いてる!なら今が一番好機。玄弥さんの後援もあるし……あとは悲鳴嶼さんが来てくれれば。よし)
自身の血の毒も実弥の稀血も先を見た時に鬼に効力があると知らしめてくれていた。
だがこうして実際に目の当たりにしなければ確信を持てなかった。
しかしこうして効力があるのだと今証明された。
それならばと風音は吐き気をもよおすほどの頭の痛みと逆上せを覚悟の上で、この場の全員に先の光景を送り込んだ。
「ぅぐ……夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘柳、ゲホッ……実弥君!お願い!」
やはり吐き気が襲ってきたし、近くで呼吸の技を放ち続けては鬼の攻撃をいなしている二人の纏っている空気が張り詰めてしまった。
まず間違いなく風音の選び取った行動に憤っているのだろう。
叱責が飛んでこないのは、毒に侵され酩酊状態に陥っているといえど、鬼の攻撃は止みはしないから。
そして風音が望んでいることを実弥と無一郎がしっかりと汲み取ったからだ。
「クソッ……風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐!」
「ーーっ、霞の呼吸 陸ノ型 月の霞消」
送られてきた光景の序盤のみを見て風音が何を望んでいるのかを即座に判断したのは実弥。
それに遅れること僅か数秒、無一郎も望んでいることを理解して、それぞれが広範囲攻撃を繰り出し鬼の動きを封じた。
「夙の呼吸 陸ノ型 紗夜嵐!」
いつの日か杏寿郎の生家で何気なく思い付いた重ね技。
あの時は庭の落ち葉を効率よく集めるために放っただけであったが、それが鬼狩りに役立つと確信して、実弥と共に綿密にひっそり手合せ時に編み出していたものを放った。