第24章 予知と鎮魂
「ゲホッ……傷の処置したらすぐ戻るから!それまで」
「霞の呼吸ーー」
実弥の言葉に従い後ろへ下がったとほぼ同時、隣りを袴のような隊服を着た柱が駆け抜けて行った。
それに気付いた時には既に戦闘音が風音の耳へと届いており、言葉を続けるよりもしなくてはならない事を思い出させる。
「今するべきことは傷の処置をして早く戻ること……目の前の鬼に集中することだ。例え……剣士の人たちの未来が絶たれた光景が流れてこようとも」
本来ならば受けなかったであろう鬼の血気術を受け、更に風音の様子がおかしかったのは、剣士たちが命を落とす先が大量に流れてきたためであったようだ。
実弥はある程度何が風音の身に起こったのかを把握して下がらせてくれたはず。
そんな貴重な時間に泣いて涙を流すなどあってはならない。
加えてこんな時に恥ずかしいなど言っている場合ではない。
いくら背後に庇ってくれているとはいえ、いつ何時、実弥と無一郎の攻撃を掻い潜って鬼が血気術を仕掛けてくるか分からないからだ。
いつでもすぐに反応出来るよう実弥たちが激しい戦闘を繰り広げている方向に体を向けつつ、隊服をはだけさせて鞄から必要なものを取り出しては素早く処置を済ませていく。
……日輪刀に拭いとった自身の血を付けるのも忘れない。
「縫うまでの傷じゃなくてよかった。……私だけ先を見てるのに情けない。絶対……貴方たちの無念は私たちで晴らすから、もう少しまってて。はぁ……夙の呼吸」
先ほど受けた攻撃の影響で飛び散ってしまった釦の一つ以外を締め終えると、風音はほんの少し自身の左側を確認してから足を踏み出し、待ち望んでいた銃声を合図に地面を踏み締めて高く飛び上がった。
「肆ノ型 飄風・高嶺颪」
鬼にとって不意打ちとなる銃弾によろめいた隙を見計らい、そして実弥と無一郎が風音の声に反応して空けてくれた隙間に飛び込み、二つの要因で赫に染まった日輪刀を鬼の鎖骨付近に食い込ませすぐさま後ろに飛び退く。
「猛毒で苦しんじゃえ」
目論見通り風音の血の毒と赫刀による激痛に鬼は体を不安定に揺らした。
しかしそれでも実弥と無一郎の攻撃を的確にいなしているのだから、風音の中に苛立ちが蓄積する。
だが実弥と無一郎の顔には笑みが浮かんでいた。