第23章 閃光と氷
つまり鬼の血気術が全て消し去ったことを意味している。
消えゆく鬼の顔はやはりどこか人を馬鹿にしたような笑みが浮かんでおり、凍結から解放された風音は脇目も振らず、突き刺したままの日輪刀に自らの腕を当てがって勢いよく滑らそうとしたが……それは暖かく大きな手で止められた。
「こんな糞野郎の為に血ィ無駄にすんな。もういい、お前は後ろ下がっとけ」
「……ヤダ。楽になんて消えさせない!この顔を苦痛に歪ませてやらなきゃ私が納得出来ない!何で笑ってるの?!人の心を踏み躙ってどうして笑ってるのよ!」
「ゴホッ……可愛い女の子の怒った顔……ずっと見ていたく」
消えつつあるのに変わらず神経を逆撫でする鬼に対し、風音だけでなく実弥や伊之助が怒りを爆発させるより一足早く、まるで言葉を遮るように、特殊な日輪刀の刃が鬼の口内を貫いた。
「喧しい鬼ですね。さっきから不快な言葉ばかり。……はぁ。とっととくたばれ糞野郎」
聞き慣れた鈴の転がるような綺麗な声の中には、思わず仲間であっても身震いするほどの怒りと冷たさがふんだんに含まれている。
その声の主、しのぶの顔を仰ぎ見た全員の体が強ばった。
……笑顔のはずなのに、小さな体から漏れ出ているのは怒り一色だったからだ。
「酷いなぁ……最期くらい……優しい言葉を」
少し……ほんの少し鬼の表情が悲しげに歪んだように見えた。
しかしその一瞬後に塵となり部屋の中に消えていったので、本当に悲しげに歪んだのかは誰にも分からなくなってしまった。
その後暫く全員が身動ぎすらせず佇んだが、その内の一人の体がふらついたことにより動きを取り戻すこととなる。
「風音?!お前……腕の怪我」
ふらついたのは風音。
たが既に腕の怪我から血は流れておらず、失血によりふらついたわけではなさそうである。
「違うよ……怪我はもう大丈夫。柱や継子の皆さんの先を見続けてるから……酔ったみたいになっただけ。この鬼の根城、無駄に広いんだもん。ふぅ……うん、落ち着いた。さて、皆さんにも先の光景を送り直すので……い、いひゃいです、実弥君」
ふらふらと体を揺らせていた風音を支えていた実弥の手が、血がこびりついている頬に伸び、そのままギュッと強く抓った。