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涼風の残響【鬼滅の刃】

第23章 閃光と氷


「お前ら、絶対そこ動くんじゃねぇぞ!すぐに」

「ねぇ、君の母親って馬鹿だよね?僕から君を逃がすために……ゲホッ、赤子の君を崖から落とすなんてさ……藁にもすがる思いって言うんだろうけど……哀れで可哀想な女だったよ」

どうして上手くいかないのだろう。
伊之助にこの事実を聞かせたくないからこそ今の未来を選び取ったのに、体が凍り付き始めた風音の耳に届いたのは、鬼の醜悪な言葉だった。

未来が刻々と変わってしまう現実に歯ぎしりし、鬼の顔に突き刺した日輪刀を深く食い込ませる。

「本当に……あんたの言動には反吐が出る!どうして……!」

日輪刀を握る力を強めると、凍り付いた腕が表面の氷ごとミシミシと不気味な音を奏でた。
このまま力を入れ続けると、まず間違いなく腕が破損する。

それを理解していても怒りと共に上がった力はおさまらず、本人ではなく実弥に焦りをもたらした。

「鬼の戯言なんかに耳貸してんじゃねェ!」

「分かってる!でもこの鬼だけは許せない!頸斬って楽に死なせるなんて……ケホッ。させるもんか!」

怒りに任せた風音の腕は、氷をひび割れさせ、その隙間からぽたぽたと血を滴らせる。
鬼の顔を引き裂くのも時間の問題だろうが、それと同時に風音の腕も破損するに違いない。

それなりに考えて戦闘不能になるようなことはしでかさないはずだが、可能な限り風音に手傷を負わせないようにするため、実弥は鬼の言葉に目を見開き固まっている伊之助に声を張り上げた。

「嘴平ァ!何ボサっとしてやがる?!煉獄は仲間が傷付いてても、構わず鬼の戯言聞けって言ってたのかよ?!戦場で立ち止まってんじゃねェぞ!動きやがれェ!」

実弥の怒声に伊之助は我に返ったように体を震わせ、瞳に涙を浮かべながら日輪刀を構えて走り出した。

「おっさんにいちいち言われなくても分かってんだよ!クソがぁ!俺の母親を勝手に可哀想なんて言うんじゃねぇ!」

鬼だけでなく実弥にも悪態をついた伊之助の日輪刀は、未だににやけている鬼の頸へと届き、間もなく胴体から斬り落とされた。

それと同時に風音と実弥の体を覆っていた氷は砕け散り、三人の後方からも氷が砕け通路に散らばる音が鳴り響いた。
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