第23章 閃光と氷
しかしそれだけでは終わらない。
鬼に尋常でない痛みをもたらす日輪刀を所持しているもう一人、実弥が風音の羽織の袂に手を突っ込み、よく似た表情で顔を満たして鬼へと握りしめているものの中身を傷口に注ぎ込む。
更に赫い日輪刀を下方で横に薙ぎ、膝の下を切り落とした。
その頃には風音の日輪刀は袈裟斬りに鬼の体を分断していたので、文字通り。鬼の体は切り刻まれ、グシャリと気味の悪い音をたてて通路へ崩れ落ちる。
苦痛と驚きにまみれた鬼の瞳に映ったのは、心底自分を侮蔑しているのだと分かる表情をした柱二人の顔だった。
「男はどうでも……いいけど……女の子からそんな目で見られるのは……ゴホッ」
危機的状況にも関わらず厭な笑みを向ける鬼の言葉に、実弥の顔から頬にかけて広範囲に渡って血管が浮き上がった。
そして風音の額にも珍しく血管が浮き上がる。
二人の怒りは同時に最高潮に達したのだろう……赫く染まった緑と若葉色の日輪刀が、迷うことなく鬼の顔面に突き刺さった。
そして実弥の行動はそれだけにとどまらず、鬼の視界から風音の姿を隠すように背後へと庇って声を張り上げる。
「テメェの最期に女の顔なんざ拝ませねェ。おォい、嘴平ァ!」
「言われなくても分かってんだよ!俺様が頸斬って……?!」
実弥に言われるまでもなく日輪刀を鬼へと振りかざしていた伊之助だったが、あと一寸で鬼の頸に届くというところで、先を送って貰って知っていたはずの……攻撃に集中するあまりに頭の中から抜け落ちていた血気術、凍て氷が実弥と風音を巻き込み、伊之助の行く手を阻んでしまった。
「クソッ、おい!風のおっさん、風音……」
「想定の範囲内です!……ケホッ、私たちが凍り付く前に斬って!」
「ヘマすんじゃねェぞォ!煉獄の継子だろォ!あいつの顔に泥塗んなァ!」
今は言葉を発する余裕があるようだが、もたもたとしていれば直に二人の全身は血気術によって凍りつき、動かなくなり、最悪の場合は死に至ってしまう。
だが幾つも先を見ているはずの風音が、鬼殺隊側の戦力を削ぐような先を選びとるはずがない。
現に先ほど送り込まれた未来では、伊之助の日輪刀が鬼の頸を斬り落としていたのだから。