第23章 閃光と氷
(もうすぐ私の血の毒も中和される。今も先を見て毒の成分を変化させてると言えど、ここでこれ以上の怪我は得策じゃない)
既に左前腕に深い傷が走っている。
総力戦、上弦の鬼との初戦でこれ以上の怪我を負うと、後々の戦いに支障をきたす。
そして、実弥やしのぶを含む柱たちに
血は無限に湧き出るものでは無いのだから、無闇矢鱈と使いすぎるな
と言われ続けていることも思い出し、この戦いでの血の使用を断念した。
こうして考えを巡らせ鬼へと迫り寄っていても、血気術は激しさを増すばかり。
本当に毒で弱っているのか……と疑問に思うが、考えても分からないことは考えても仕方がない。
先を見れば鬼の頸を斬り落とせるものが幾つか見えたので、最も有効かつ全員の負傷が最小限に抑えられる先一つに絞り、頭痛や眼痛を覚悟して全員にその先の光景を送って……やがて送るのを中断した。
「実弥君!お願いします!」
そしてもたらされた激痛を無理矢理に押し込めて叫ぶと、最後に送った光景の通りに実弥が鬼の攻撃を避けながらくるりと身を翻し、風音へと向き直った。
「来い!」
実弥の声を合図に通路を踏みしめると、絶妙な頃合で鬼の攻撃を、まるで二人に届かせてなるものかというように伊之助が防いでくれる。
「血気術 散り蓮華」
しかし先を知っていたとしても、上弦の鬼の血気術を全て防ぎ避けるのは至難の業だったのだろう。
美しくも鋭い蓮華の花弁を模した細かな氷の礫が伊之助を襲い、勢いよく猪頭を空中へと巻い上がらせた。
「厄介だなぁ。先読みの力は……あれ?君、琴葉に……」
キンッ
素顔が露わになった伊之助に気を取られた鬼の耳に、金属が激しくぶつかり合う音が響く。
何事かと音のした方へと咄嗟に意識と扇子を向けると、目と鼻の先に風音が迫り寄ってきていた。
目を血走らせ、両手で赫く染まった日輪刀を振り上げながら……
「それ以上喋るなぁ!」
振り上げられていた日輪刀の刃が左肩に触れた。
それからは一瞬のはずだったのに、酷く緩慢な動きで徐々にくい込んでいく。
今まで辛うじて防いでいた実弥の日輪刀と同じ色に染まった風音の日輪刀は、傷口を焼きながら身を滑っていくようで、意識を朦朧とさせるほどに痛みを伴わせた。