第23章 閃光と氷
「実弥君、予定変更!私がこの氷のちっさいの受け持つから、出来るだけ早く鬼を倒してほしい!たぶん……長くは持たないから!」
「あ"ぁ"?!口動かす暇あんなら体動かせェ!」
そうして男性の心臓を悪くする事態は続く。
上弦の鬼から生み出されたのは、正しく鬼の分身。
大きさは風音の膝ほどくらいしかないにも関わらず、その力量は目の前でグズグズに崩れ落ちそうな鬼に匹敵する。
つまりこの場に上弦の鬼が二体いることと同義だ。
いくら先が見えると言えど、風音一人では手に余りに余る。
もちろんそんな事実は風音は百も承知であるし、実弥もしのぶも、カナヲや伊之助も承知の事実だ。
だが現状、風音より実弥の方が力量が上であるし、しのぶの瞬発力は風音を超える。
目の前の鬼が崩れ落ちそうなほどに弱体化していると言えど上弦の鬼。
風音より遥かに長い年月を柱として在籍している二人が全力で向かうべき相手……だと判断した風音の言葉だったのだが……
風音が小さくも凶悪な氷の分身と向き合ったところで、小さく軽い体に押し飛ばされた。
「しのぶちゃん?!」
「私とカナヲでこの氷像の相手をします!その代わりにこれを」
実弥の隣りへと押し出され驚き目を見開いた風音だけに聞こえるように。
そして鬼から見えないように細心の注意を払い、しのぶは素早く風音の袂へと小さな瓶を差し入れた。
この場でしのぶが風音に渡してくるものなど一つしか思い当たらない。
「……確かに受け取りました」
「はい。私では頸を斬れませんから」
今は互いに顔を見て話す余裕などない。
しかし顔が見えなくとも、しのぶの声音から、実姉の仇である目の前の鬼の頸を自身で斬れないことが悔しい……とありありと伝わった。
「風音ちゃん、これは私と姉さんに任せて!絶対に貴方たちに攻撃を向けさせないから!」
カナヲの言葉と、それに続いて激しく攻撃がぶつかり合う音が風音の耳に響く。
氷の分身に向かっていったしのぶとカナヲ。
目の前では上弦の鬼にトドメを刺そうと、見事な連携で連撃を撃ち込んでいる実弥と伊之助の姿。
風音は気持ちを切り替え、静かに鞘へと日輪刀をしまい、鬼へと足を全力で動かした。