第23章 閃光と氷
風音に続き実弥が氷の菩薩像へと切り掛る姿を確認したしのぶは、左の目玉を床に零れさせたまま部屋から逃げようと画策していた鬼の後頭部へと日輪刀を突き刺した。
「あらあら、どこに行かれるのですか?まさか逃げようだなんて考えていませんよね?」
「ゴホッ……体勢を整えるだけ……だよ。それにしても君たちは女の子なのに本当に手荒いね。思わず……ゲホッ、体の中に取り込みたくなっちゃうくらい!」
鬼の頭の中はどうなっているのだろう。
思わずしのぶとカナヲが顔をしかめながら思ったことだ。
日輪刀が刺さった状態で振り向くものだから、掻き混ぜたようになり、血飛沫が辺りに飛び散る。
……自分の指で頭の中を掻き混ぜていたので、全く問題ないのだろうが。
今はそれよりも日輪刀を伝って伸びてきた鬼の手を避けることが急務である。
「私に触らないで下さい。見苦しい」
急務であっても、動きの素早いしのぶにとって、鬼の手から逃れることは容易いこと。
ふわりと蝶のように舞うと、後ろへ飛び退きカナヲが控えていた場所へと着地した。
「カナヲ、何度も風音ちゃんに血を流させるわけにはいきません。あの子の血の毒と私が調合した毒が有効なうちに、あの鬼の頸を落としますよ」
「はい!カナエ姉さんの仇……絶対にとりましょう」
二人の会話に鬼が崩れた顔のままニヤリと厭な笑みを浮かべた。
「やっと思い出したよ……ゲホッ。食べ損ねた可愛い女の子の柱。君たちはその子の妹だったんだね!運命的な出会いじゃないか!」
白々しい芝居じみた腸が煮えくり返るような鬼の言葉に、しのぶとカナヲは額から首筋にまで血管を浮き上がらせ、容赦ない速度で鬼へと迫っていった。
一方、風音と実弥は、巨大な氷の菩薩像をどう粉微塵にしてやろうかとそれぞれが考えを巡らせていた。
しかし風音は考えることすら苦戦しているように見える。
(頭の中……焼き切れちゃいそう。柱の皆さんが離れ過ぎてて、気を抜けば先を送れなくなってしまう。一度途切れさせると……もう後を追えない。絶対にそれだけは阻止しないと)
引きずり込まれたこの鬼の根城はとてつもなく広く、またその根城を縦横無尽に皆が動き鬼を駆逐していっているので、風音への負担が過多になりつつあるのだ。