第23章 閃光と氷
だが、いくら目の奥に激しい痛みが走ろうと、涙で視界をにじませる訳にはいかない。
「泣くなァ!この塵屑の首落とさなきゃあ、俺らみたいな思いするヤツ増える一方だぞ!前向けェ!攻撃する手緩めんじゃねェ!」
傍から聞けば激しい叱責に違いないが、今の風音にとっては、精神を安定させてくれる優しい言葉。
その言葉でぐちゃぐちゃになった感情は霧散していき、憤りのみを日輪刀に乗せた。
「はい!実弥君、可能ならば……今から送ることと同じことして欲しい!」
どうにか錯乱状態から脱した風音に心の中で安堵し、鬼の攻撃をいなしては技を繰り出しつつ、風音が望む先を見て……血管を全身に浮き上がらせた。
「ふざけんなよ!……あ"ぁ"、クソがァ!」
「さっきから不愉快だなぁ。伊之助?しのぶ?」
風音の望む先に憤りを感じ、それを全力で鬼にぶつける実弥。
そんな実弥から今度は鬼のが距離を取り、おもむろに自身のこめかみに指を突き刺して、脳をほじくり返しだした。
その様に実弥も風音も不快感を露わにして顔を歪めるが、鬼が動きを止めた今が好機だと、まずは風音が動き出し、鬼の側まで通路を走って距離を詰め、水の中へと自ら飛び込んだ。
「夙の呼吸 弐ノ型 吹花擘柳」
鬼に攻撃をせず、まるで実弥の姿を隠すように、技をその場で繰り出して水の煙幕を張る。
「相変わらず跳ねっ返りだなァ!ったく、お前のモン無駄にすんじゃねェぞ!」
「大丈夫!何個見ても成功する未来しか見えないから!」
自信たっぷりな風音の表情と言葉に実弥は笑みを浮かべ、間もなく水の煙幕から飛び出してくる鬼へと詰め寄って行った。
それを確認すると風音は実弥の影に隠れる場所を見極めて体を滑らせ、既に鬼と交戦している背中を追う。
こうして柱二人が別々に攻撃を仕掛けてくるとなると、もちろん鬼は警戒を強める。
しかし警戒を強めたとて実弥の猛攻や一部の隙もない様子に、片手間で済まして風音に十分な警戒を向けられずにいた。
「何しようと……してるのさ?」
「喋んなァ!テメェの声聞くだけで胸糞悪ぃんだよ!テメェは俺に集中しとけェ!」