第23章 閃光と氷
「おい!怪我してねェだろうなァ?!」
「してない!すっごく寒いけど……」
風音が戦闘に戻ってすぐ。
ぶるりと体を震わせる隙すら与えられず、永遠と刀を振り続けることを強制されている。
「寒いよね?僕があっためてあげるから、こっちにおいでよ。耳元でずっと風音ちゃんのお父さんのことを話してあげる」
ただでさえ疲労が溜まるのに、更に風音と実弥の精神を揺さぶってくる。
しかもずっと笑みを浮かべているので、二人の憎悪や嫌悪は留まることなく膨れ上がっていった。
「血鬼術 粉……」
「実弥君!絶対に吸わないで!可能な限り距離とって!」
いくら二人の中が嫌悪で満たされ頸を斬ろうとしても、こうして血鬼術を放ち距離を詰められないようにされてしまう。
そんな状況に実弥が歯噛みして後方へ跳躍する中、風音は鬼の背後に狙いを定め……実弥に先の光景を送るのを中断した。
「何やってやがる?!ふざけんじゃねェぞ!」
「大丈夫!こいつの狙いは私だけど、殺されはしないから!」
予想通りの実弥の怒号にひっそり笑みを浮かべ、風音は襲い来る微細な氷の結晶を見据えて動き出した。
(あの血鬼術が肺に入れば細胞を壊死させる。つまり皮膚に触れたら……凍傷になって四肢が壊死するってことだよね)
殺されないだけ。
鬼からすれば風音の四肢がもげようが肺の細胞が壊死しようが、生きてさえいれば何ら問題ない。
実弥が離れた場所にいる現在は圧倒的に不利で危機的状況だが、先が見えればどうにかなるはず。
そう信じて体を動かし続け跳躍しては伏せ、血鬼術の回避に心血を注ぎ、ようやく鬼の背後に到達した。
視界には厭な笑みを浮かべる鬼と、静かに怒りを滾らせ走りよって来る実弥の姿が目に映っている。
(実弥君、心配かけてごめんね。でも……はぁあ)
「どうしたの?お父さんのことを聞きに来たの?それとも僕に抱き締めて欲しくなった?」
舐められているのか、鬼は血鬼術を放ってこない。
腹立たしいほどに余裕な鬼へ……風音は日輪刀を向けてニコリと微笑んだ。
「黙れ塵屑。あんたみたいに人の痛みを分からない奴なんてお断り。……あ、ねぇ!もしかして悲しいとか楽しいとか幸せとか、生き物なら感じる感情何一つ感じたことないの?フフッ、中身空っぽなんだ!滑稽だね!」