第4章 お稽古と呼吸の技
「もう日が沈んじまう。アイツは日輪刀持ってねェし剣術もまともに使えねぇんだぞ……何でこうなっちまうんだ!守ってやりてェ奴ほど先に逝きやがる!」
実弥が言っている守りたい者を全て知っているわけではないが、以前にホロリと零した話で何名かは小芭内の脳裏に浮かんだ。
鬼殺隊に在籍するくらいなので、珍しくないと言えば珍しくないのかもしれない。
しかし実弥から教えてもらった過去は聞いているだけでも胸が締め付けられるものだった。
「柊木はまだ生きている。不死川のことだ、暗がりや危険な場所に近付くなと注意しているだろう?柊木は危機感が欠如しているが馬鹿ではない」
「分かってる。けどなァ、アイツが鬼に攫われた子供を見つけたらどうすっか知ってるかァ?それも鬼が近くにいるかもしれねェって判断すれば、まず間違いなく子供の先を見て子供が助かる方法を優先すんだ。何度も体に死ぬほどの痛みと苦痛を味わいながらなァ」
速度を緩めることなく走り続ける実弥の顔は、疲れからではなく死ぬほどの痛みと苦痛を味わっているかもしれない少女を想い苦しげに歪んでいる。
これほどまでに少女を想い胸を痛めているのに自身の気持ちに気付いていない実弥に小さく溜め息を零し、小芭内は提案を持ち掛けた。
「先に行け。俺はこれ以上不死川の速度について行けないからな。柊木は任せたぞ」
風柱と謳われる通り、実弥は鬼殺隊の中でも脚が早い。
小芭内も一般人と比べると比べものにならないほどの脚力の持ち主だが、実弥に及ぶことは無い。
それは小芭内本人はもちろん実弥も分かっているので、実弥は出された提案をすんなりと受け入れ更に速度を上げた。
「言われるまでもねェ。子供と爽籟見つけたら安全な場所に待避させとくから、そいつらの側にいてやってくれ!」
言葉を小芭内に残し終わったと同時。
実弥はさらに速度を上げて日が沈み行き薄暗くなっている道を進んで行った。
「鏑丸、俺も速度を上げる。落ちないようにしっかり巻きついていてくれ」
小芭内の理解者であり友である鏑丸。
いつも小芭内の首元に巻き付き寄り添っている白い蛇の相棒は、言われた通りしっかり巻き付きながら……小芭内と今し方まで側にいた実弥の張り詰めた空気に呼応して、目元に緊張を走らせた。