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涼風の残響【鬼滅の刃】

第4章 お稽古と呼吸の技


時間がないながらも励ますように抱きしめ続けていると、それを感じとったように勇が顔を上げて涙を腕でぬぐった。

「うん、分かった。優しい鴉さんに会ったら、お姉ちゃんを助けてってお願いするから!だから……後でもう一回ギュッてしてね?意地悪なお化けに負けないで!」

「勇君は強くて優しい子だね。私はもう一回勇君をギュッてするために頑張るよ!よし、じゃあ私が合図したら振り返らずに走ってね。疲れちゃっても前に進み続けて。いい?」

震える体を懸命に抑え力強く頷く勇に笑顔を返すと、風音は小さな体を地面に下ろしてやり進む方向へと促した。

(あと十秒……爽籟君、この子をお願い)

「そろそろだよ……走って!」

進む方向を真っ直ぐに見つめる勇に合図を出しポンと背中を押してやると、風音との約束を守りただただ前に進んでいった。

それを笑顔で見送ると、風音は手頃な木の棒を手に取り勇が恐怖していた穴……大きな木の洞を見つめる。

「あと少しで日が沈んじゃう。動いて抜け出せる道は勇君が通ってる道だけだから、下手に動くより体力を温存してた方が懸命だよね?私が同じ道を行ったら鬼に追いつかれて死んじゃうし」

実の所、風音は立っているのがやっとなほどに心身共に限界が近い。
勇の先を見ることで、何度か勇が負った瀕死の重傷を身をもって全てを共有してしまったからだ。

背中を爪で裂かれたり腕に噛み付かれるなどまだマシな方で、思い出すだけで身震いするものが大半を占めていた。

「身体中余すことなく痛い……この痛みのお陰様で眠気は吹っ飛んじゃってるけど、いつ急激な睡魔に襲われるか……ダメダメ!勇君をギュッてしなきゃだし、実弥さんに自分を大切にするって約束したんだから……実弥さんに会いたいな。ギュッてしてほしい」

すぐに思い浮かんだのは一番好きな穏やかに笑ってくれる実弥の表情だが、今のこの危機的状況では般若の形相で怒鳴りつけ頭を鷲掴みにしてくる実弥の表情さえ恋しくなるのだから不思議なものだ。

「助けてもらった次の日以降ギュッてしてもらってないから、帰ったらお願いしてみよう!うん、頑張れる気がする!」

少し前から夕日に変わっていた太陽は既に山間に消えようとしている。

それを待っていたかのように、木の洞から意地悪なお化け……鬼が姿を現した。
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