第23章 閃光と氷
優しい声音、手のひらから頬に伝わる実弥の暖かさを噛み締めるように一度目を閉じた後、大きく頷いて立ち上がった。
「もちろん立てるよ!私は鬼になってないんだから、こんなところで蹲っていられない……今から胸糞悪い上弦の鬼のとこ行って頸斬らなきゃ」
思いの外立ち直りの早かった風音は実弥の頬に触れてくれている手に自身の手を重ね合わせ、きゅっと握り締めてから吊り上がり気味の瞳を見つめて頷いた。
「もう大丈夫!今から行けばまだ間に合う……実弥君、あっち!」
僅かな時間だけ繋がれた手から流し込まれたかのような先の光景。
今から少し時間が経過しているであろう、とある広い部屋の光景だ。
それを見た途端、実弥の目が血走り、走る速度が一気に上がった。
「一般の女連れ込んでんのは変わってねぇのかよ!ぶっ殺してやる」
今向かっているのは、池のように水で満たされた部屋。
そこには計画通りしのぶも向かっているはずだが、この場所からならしのぶが到着するよりも早く到達出来る。
あと一分以内に到着出来れば、脳内に送り込まれた光景に映っている人を助けられるのだ。
「変わってないよ。でもまだ間に合う!まだ一人も喰べられてないから。……実弥君、あの角を曲がってすぐの右側の部屋。私じゃ助けられないけど、実弥君の速度なら助けられる!私が斬り込むから、女の人をお願い!」
二人が見ているのは鬼殺隊ではない多くの一般の女性が上弦の鬼に喰われる光景。
まるで鬼殺隊を嘲笑うかのように笑顔で虐殺する鬼の姿である。
その女性たちを一人も漏らすことなく助けるために走っているのだ。
「任せろォ……風音ーー放てェ!」
「夙の呼吸 壱ノ型 業の風!」
角を曲がってすぐ。
実弥の声を合図に急停止し、懇親の力を込めて技を放って重厚な扉を吹き飛ばした。
「女いたぶって楽しんでんじゃねェぞ糞野郎ォ!風の呼吸ーー」
実弥は走る勢いそのままに部屋の中へ突っ込み、今まさに女性の首元へ牙を突き付けていた鬼に斬撃を放ち、鬼が怯んだ隙に女性を腕に抱きかかえて背後に跳躍。
そして部屋に張り巡らされた通路で、怯え一塊となっていた女性たちを庇うように立ち塞がっている風音の元へと戻った。