第23章 閃光と氷
「はい!夙の呼吸ーー」
構えを取ると、風音の耳に次々と様々の呼吸の技名が飛び込んできた。
風に始まり、炎、水、霞、蟲、蛇、恋。
そして少し離れた場所からは水、雷、獣、花。
柱やその継子たちが風音の予知通りこの場に集結し、それぞれが鬼舞辻無惨に一死報いようと日輪刀を振りかざしている。
鬼舞辻無惨は珠世によって腹を貫かれ、研究に研究を重ねて開発した毒薬を流し込まれ、更には岩柱である行冥に頭をひねり潰されて身動きの取れない状態。
それでも死なないのならば、自分たちが攻撃しても倒すことは出来ない。
それでも全力で技を放つのは、鬼舞辻無惨に深手を追わせ可能な限り回復するまでの時間を割かせるためだ。
「ーー陸ノ型 紗夜嵐」
風音の柔らかな風の膜と共に数々の強烈な技が鬼舞辻無惨に叩き込まれ、弱っている体を引き裂き血を吹き出させる。
「蠅共がぁ!私を舐めるなー!」
やはり倒れてはくれない。
予知通りの現実にもどかしさを感じながらも、風音は次の鬼舞辻無惨の行動に備えて実弥の傍らに即座に移動する。
それと同時に地面が障子へと変化して、全員を飲み込むために大きく口を開いた。
「皆さんに先を送り続けます!どうかご無事で……いっ?!」
「風音?!クソがァ!」
鬼にとって厄介な柱に先の光景を送らせないためか、それとも尽く計画の邪魔をする小娘が気に入らないのか……それとも予知能力を欲してか。
そのどれかは分からなかったが、鬼舞辻無惨は予知では見られなかった動きを見せた。
背中から、いつの日か見た記憶のある触手のようなものを伸ばし、風音の腕を絡めとったのだ。
実弥がいる方とは反対の腕に巻き付いた触手の力は思いの外強く、風音が振りほどくのを諦めて日輪刀で切断しようとしたところ……それよりも速く触手が両断され、風音の体は障子の中へと吸い込まれていく。
その時に見えたのは、自分より年下の天才剣士の姿だった。
「無一郎君!待って!こっちに」
「言ったでしょ?不死川さんが間に合わない時は俺が助けるって!また後でね!」
別の障子へと落とされていく無一郎に手を伸ばすも届かず、その手を握り締めると、刀を握っていた方の腕が強く引き寄せられた。