第23章 閃光と氷
時を少し遡り、お館様と鬼舞辻無惨が言葉を交わし始めてすぐの頃。
(あと少しでお部屋の明かりが消える。それまで鬼舞辻からお館様と私に危害を加えられないようにしないと。あとは……)
風音は平静を保ちつつ二人の会話をしっかり聞きながら、自ら考え、お館様や行冥、そして実弥に手を加えてもらいながら練った作戦を頭に巡らせていた。
あと何秒後に何が起こるのか、その時々で何をしなくてはいけないかを整理し、柄にあてがっていた手に力を入れて一気に日輪刀を抜き出して横に薙ぐ。
「黄泉への旅路の前に聞いてくれるんでしょ?」
幾ら暴言を吐かれようと怒りを露わにされようと、風音には関係ない。
その先に何が起こるのか分かっているので、殺されないのであれば、これからの作戦に支障をきたさないからである。
そして予知通りお館様に危害を加えようとしていた鬼舞辻無惨は、風音の言動によって僅かにお館様から離れ、聞くに耐えないであろう言葉を聞いていた。
(……来てくれた!あと一分で門の前に到着してくれる。……こっちはあと五秒、四、三……)
頭の中で数を摂る間に畳へと視線を落とし、鬼舞辻無惨に気付かれないよう、そっと目を閉じる。
瞼を通して部屋の明かりが消えたことを確認すると、素早く日輪刀を鞘に戻して袂の中に手を入れ、目当てのものを取り出す。
それを感触で確認した風音の顔には笑みが浮かんでいた。
「これで目くらましのつもりか?小癪な……」
鬼舞辻無惨の憎々しげな声音で発せられた言葉に返答をしつつ、お館様の体を抱き寄せ目を閉じたまま、袂から取り出した物を畳に勢いよく叩きつけた。
すると瞼越しでも強烈な光が目に飛び込んできて目眩を覚えたが、どうにか踏ん張ってお館様を抱き上げ、予知によって見える光景を頼りに、怯んだ鬼舞辻無惨を横切って庭へと飛び出し、門へと向かって足を動かした。
「お館様!爆破させて下さい!ここならばもう安全なはずです!」
風音の合図にお館様が頷た瞬間、吹き飛ばされそうな爆風と、服が焼け落ちてしまうのではないかと思うほどの熱が風音の背中を襲った。