第4章 お稽古と呼吸の技
実弥が小芭内と共に山へと急ぎ、爽籟が懸命に羽を動かしている頃、風音は残された僅かな時間を使って子供の先を見ていた。
(未来ってこんなに見るの大変だったの?!人の行動一つで未来が大きく変わっちゃう……早く見つけないと。この子が生きて……私も生きることの出来る未来)
今まではただ見えた先を実弥に伝えるだけでよかった。
伝えるだけで実弥は難なく最善の道を選択し、行動してくれていたからだ。
そして実弥と会うまでは先を見ることなどほとんどなかったので、人の行動一つでこうも先が変わるなど知る由もなかった。
「ダメ……時間がないや。まずはこの子を無事に帰してあげることが先決だから……ねぇ、僕。お名前はなんて言うの?」
風音の体から離れまいとしがみつく子供に可能な限り穏やかに問い掛けると、泣き腫らし真っ赤にした目を向けて小さな声で答えてくれた。
「勇(いさみ)……お姉ちゃんは?」
「勇君かぁ、素敵なお名前ね。私は風音って言うの。さて勇君、今から私が話すことをしっかり聞いてくれるかな?勇君がお母さんとお父さんのところに帰るための、大切なお話」
ニコリと微笑み抱きしめ直すと、勇はそれに応えるように風音にしがみついて頷いた。
「いい子だね。本当は私も一緒に行きたかったんだけど、勇君を通せんぼする意地悪なお化けを止めなきゃいけないの。一人で心細いかもしれないけれど……ここを真っ直ぐ、振り返らずに前に進み続けて。そうすれば優しい鴉さんが勇君を山から出してくれるから。出来そうかな?」
勇を通して自分の先を見たのだが、短時間ではどうあっても自分が死ぬ未来しか見えなかった。
しかし二人が別行動をとる……自分が囮となり勇が山の麓へ足を動かし続けることで僅かながらも大きな光明が差したのだ。
爽籟がこの山に到着し勇を見つけてくれる未来が見えた。
つまり実弥がこの山に向かってきてくれていることを意味している。
「怖いし寂しいよね……でもどうか頑張って。あと少しでお母さんとお父さんに会えるから」
小さく震える体が風音に罪悪感をもたらす。
だからと言って共に行動すれば二人共が命を失ってしまうのだから、震える体を抱きしめ続けてあげることは出来ない。