第23章 閃光と氷
決戦後、生き抜いたならば、爽籟からもたらされる話によって叱られることが決定された風音。
その風音は今、日輪刀の柄に手を当て、睨み付けてくる鬼舞辻無惨と対峙していた。
「やはりここに来ていたか。矮小な蝿が」
本当に蝿としてしか風音のことを認識していないのだろう。
鋭く細められた赤く光る目は体の芯から凍えさせてしまいそうなものである。
しかしそんな人を侮蔑するような色に満ちていたとしても、風音の能力の有用性を見出しているからなのか……それとも他の柱の動向を警戒しているからなのか、今すぐに手にかける様子は伺えない。
「蝿でも何でも……あんたの頸を斬り落とせるならば何だって構わない」
「貴様如き矮小な蝿一匹の力など、私の脅威とはなり得ぬ。他の蝿どもが集る前に貴様を取り込み先読みの力を手中にすれば、最早貴様ら鬼殺隊に勝ち目などない」
今まで憶測だったことが鬼舞辻無惨の今の言葉で明確となった。
やはり鬼舞辻無惨は鬼殺隊を殲滅するため、風音の能力を欲していた。
今ここで風音を生かすも殺すも鬼舞辻無惨の采配一つ。
幾ら作戦を綿密に立ててきたと言えど、否が応でも心胆寒からしめられ、冷や汗が全身から吹き出し体を伝って流れ落ちていった。
そんな肌が裂けるのではと思うほどに張り詰めた空気が漂う部屋の中で、ふと風音の目の前がふわりと柔らかな雰囲気となった。
こんな柔らかな雰囲気をこの場で出せるのは一人しかいない。
お館様だ。
「何が可笑しい?産屋敷とはつくづく不快な一族だ……まぁ、いい。黄泉への旅路の前に話を聞いてやろう」
苛立ちをどうにか抑え見下しながらお館様を睨み付けるが、お館様の笑みは一切崩れない。
しかもそれだけにとどまらず、さらに笑みを深めて鬼舞辻無惨へと言葉を放った。
「鬼舞辻無惨、君にはこの子が蝿に映っているのかい?……違う、私の子供である風音や柱たち、鬼殺隊の隊士は虎や龍だ。本来なら一生目を覚ますことのなかった虎や龍を、君は呼び起こしてしまったんだよ」
「何だと?」
細まった瞳は不快感が露わとなっている。
しかし話を遮るつもりはないようで、それ以上言葉を続けることはなかった。