第23章 閃光と氷
「私は平気だよ。私の心配をせず、風音は君自身の身の安全を優先させてほしい。もしもの時は私を無理に助けようなどと考えず、この場から離れるんだ。いいね?」
枕に頭を預け、柔らかく細められた瞳はどこまでも優しく風音を映した。
その瞳や不思議と人を惹きつけるお館様の穏やかな声音に思わず頷き返しそうになったが、手をギュッと握り締めて気を引き締め直し、ニコリと微笑みながらこてんと首を傾げた。
「私はお館様や鬼殺隊の皆さんと一緒に明るい朝日を見るため、ここに来る道を選びました。実弥君や柱の方々に我慢を強制し、ワガママを貫き通してです。私、頑固な上に欲張りなので、何も諦めません。お館様を見捨てるなんてとんでもございません」
一見すると素直に何でも頷き受け入れそうな穏やかな笑顔なのに、瞳に宿った光はいやに強く、意志の強さを感じさせる。
意志の強さは生まれ持ったものなのか、意志の強い実弥と長い月日を共に過した故のものなのか。
お館様にも判断は付かない。
しかし元師弟のそっくりな意志の強さに思わず笑みが零れ、張り詰めていた空気が僅かに和らいだ。
「風音、君は強い子だね。自らの身の危険を省みず、こうして人との繋がりを繋ぎ続けようとしてくれる。そして、どんなに辛いことがあっても笑顔で生き続ける姿は、とても眩しくて暖かい」
和んだ空気の中で紡がれたお館様の言葉を風音は即座に理解することが出来なかった。
だがそれらの言葉を頭の中で巡らせ数秒後。
体内の血液が一気に顔へと駆け上がり、白い肌を真っ赤に染め上げた。
「い、いえ!私が笑顔でいられるのは……お館様や柱の方々や鬼殺隊の仲間、そして強くて優しい実弥君が私を受け入れて下さり、側で寄り添ってくれているからなんです!お館様、私、鬼殺隊に入れて本当に幸せです。お館様には感謝しても感謝しきれません」
頬を赤らめたり慌てたり、幸せそうに笑ったり。
僅かな時間の間に表情をコロコロと器用に変える風音に小さく笑いを零した後、お館様はゆっくりと体を起き上がらせた。