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涼風の残響【鬼滅の刃】

第23章 閃光と氷


数年間を共に過ごし、任務では助け合いながら生きてきた風音の願いは、楓にとって何より大切で叶えてやりたいもの。

しかし未来の見えない楓では、この先の道中で鬼が出るのか判断出来るものではなく、不安が胸を燻る。
このまま遣いを請け負い風音の命が危険に晒されてしまうのならば……と考えるとここに留まりたくなったが、やはり願いは無下に出来なかった。

願いを叶えることが風音にとって鬼殺隊にとって最善なのだと信じ、この暖かな腕の中から飛び立つ決意を固めて、首を縦に振った。

「オ任クダサイ!柱ノ方々ノ鎹鴉ヘト詳細ヲ伝エ、定刻マデニ必ズ私ハ風音サンノ元ニ馳セ参ジマス!ドウカオ気ヲ付ケテ、ゴ武運ヲ!」

力強い楓の激励に風音は大きく頷き返し、闇色に染まりつつある空へと小さくも頼もしい相棒を解き放った。

「楓ちゃん!大好きだよ!大好きな楓ちゃんを待ってる!帰りを待ってるから!」

空に向かって叫ぶと、返事をするようにクルリと旋回し、目的の場所へと真っ直ぐに羽を動かして飛び去って行った。

それを見送った風音は薄らと滲んでいた涙を腕でグッと拭い取り、本部へと続く道を見据える。

「大丈夫、私もお館様も死なないんだから。実弥君や楓ちゃん……皆さんと一緒に鬼と戦える。よし……ふぅ……全集中の呼吸」

大きく息を吸い込み足に力を入れて、薄暗い道をしっかり踏みしめて速度を上げた。





産屋敷邸へと辿り着いた時にはすっかり日が暮れ、辺りは静寂に包まれていた。
それは鬼殺隊に入隊する前から足を踏み入れていた、藤の花が咲き乱れている庭も、二つの人影しか確認出来ない広い部屋も同じくである。

風音の傍らには清潔な布団の中で体を休めているお館様が静かに呼吸を……しかし苦しげに繰り返しており、音がするといえばその呼吸の音と、風に揺れて擦れ合う葉の音のみだ。

「お館様、あと少し……ご辛抱願います。きっと……いえ、必ず鬼による悲しみの連鎖を私たちで断ち切ります。どうか見届けて下さいませ」

小さく呟くような声音であっても、静寂に包まれた部屋の中では明瞭に響き、どの音も漏らすことなくお館様の耳へと届いた。
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