第23章 閃光と氷
「サッちゃん、行ってきます。必ず戻って来るから待っててね。……すみません、どうかサッちゃんをよろしくお願いします」
そしてついに開戦の日が訪れた。
朝のうちに楓と爽籟に手紙を授け、父親の友の元へと飛んでもらった。
すると午後には男性は不死川邸へと赴いてくれ、現在は門の前で名残惜しそうにするサチの隣りに座り、風音の願いに大きく頷いた。
「この子のことは心配いらないよ。風音ちゃんと実弥君は、鬼を倒すことだけ考えてくれ。俺たちはここで君たちの帰りをずっと待っている。無事を祈って待っているから……どうか気を付けて」
優しかった父親と同じく、やはり男性も底抜けに優しい。
心配そうに眉をひそめる男性に笑顔で頷き、静かに待ってくれている実弥を見上げて手を握る。
「実弥君、待っててくれてありがとう。そろそろ行こっか」
「あぁ。……すんません、サチのことよろしくお願いします」
二人が同時に頭を下げると、男性は慌てたように首を左右に振り、サチをギュッと抱き締めた。
「いいんだって!俺が好んで引き受けたんだし、ほら、サッちゃんも、懐いてくれてるからね!君たちが頭を下げることなんてないんだ!さぁ、もうすぐ日が暮れてしまう。行っておいで」
男性はまるで自分の子供たちにするかのように、優しく二人の頭をポンと撫でて顔を上げるよう促す。
二人は促されるまま顔を上げて頷き合い、腰に差した日輪刀の存在を確かめると、身を翻して門に手を当てて夕日に照らされた道へと足を踏み出す。
最後に……決戦へ赴く前にもう一度サチを見ようと振り返ると、大人しくしながらもキリッとした表情を向けてくれているサチが目に映った。
その姿が二人の心を癒し、元気を与える。
風音は笑顔で手を振り、実弥は手を振ることはしないものの笑顔を向けて……門を外側からゆっくりと押した。
しばらくしてサチと男性の姿が門の内側に隠れると、二人はどちらともなく互いの体を抱き寄せた。
「絶対生きて待ってろよ、時間になりゃあすぐに向かうから」
「実弥君とのお約束は絶対破らないよ。絶対……死なない」
今から二人が向かう場所はそれぞれ違う。
実弥は警備へ。
風音はお館様の御屋敷である本部へ。