第23章 閃光と氷
「うん。実弥君もどうか一人きりにならないように気を付けて。実弥君が強いの知ってるけど……鬼に実弥君の何かを奪われるかもしれないと思うと、怖くて仕方がない。柱の皆さんも剣士の皆さんも、全部守れる力が私にあったらって思う。誰も……死なせたくない」
そんなこと、誰にも成し遂げられることではないと分かっている。
鬼の本拠地は広大で、十二鬼月はもちろんのこと、十二鬼月に及ばないながらも、下弦の鬼の戦闘力を有した鬼が山ほど待ち受けているのだ。
柱が九名揃っていると言えど、広大な鬼の本拠地に点在する鬼を迎え撃つことは人数的に不可能である。
風音がいくら先を見えると言えど、一人でそんな場所で対処出来るはずもない。
その事実を理解しているからこそ、どうしようも無い現実に胸が痛み、サチを撫でる手が僅かに震えた。
「わぅ……」
そしてそんな風音を心配そうにサチが見上げて小さく鳴き、実弥は頭を撫でていた手を風音の手に重ね合わせた。
「俺や柱のヤツらの心配なんざ必要ねェよ。お前のお陰で塵屑共の血鬼術がどんなのか分かってんだから。出来ることを全力で、いつも通り鬼の頸を容赦なく斬ることだけ考えてろ。ほら、そんな顔してっから、サチが心配してんぞ」
実弥の言葉にサチを見遣ると、心做しか目尻を下げて見つめている……ように見えた。
その表情を見ていると申し訳ないという感情が沸くと共に、あまりの可愛さに愛しさが沸き、自然と笑顔が零れる。
「サッちゃんは本当に可愛いね。うん、実弥君!私、自分に出来ることを精一杯頑張るよ。大切な人を失わないために、この先誰も鬼に苦しめられることがない世界にするために」
「それでこそお前だ。どんな事が起こっても前を向いて刀を振り続けろ、その傍らには必ず俺がいる。全員で塵屑野郎をぶちのめして、この家に戻って来るぞ」
実弥は笑顔を取り戻した風音をサチごと抱え上げ、膝の上に座らせギュッと小さな体を包み込んだ。
もちろん風音はそれを拒むことなく受け入れ、実弥の胸元にピタリと頬を寄せる。
「うん。必ずこのお家に戻ってこようね。サッちゃんとヒイちゃんラギちゃんが待っててくれるこのお家に」
風音と実弥は、互いの暖かさとサチの暖かさに身を委ね、激戦の前の穏やかなひと時を過ごした。