第4章 お稽古と呼吸の技
「いや、そりゃあねェだろ。アイツ、俺とか柱の奴ら以外に懐いてねェもん。それに危機感持たせてやろうと思って押し倒したことあんだけど、他の男に押し倒されたら悶絶させるっつってたしなァ。結局それが分かっただけで、俺に対して危機感持たせることは出来ずじまいだ」
小芭内からすればとんでもない実弥の行動に目を剥いたが、今までや今日の風音の言動を見る限り実弥に怯えるどころか、変わらず懐いて後を追いかけているので……あの少女にとって衝撃的な出来事ではなかったのだろうと結論付けた。
「荒療治も不死川に対しては無意味に終わったわけだな。何にしても弟子と言えど大切にしてやることだ。最終選別もそうだが、鬼殺隊に入れば明日の我が身……になるのだからな」
風音が鬼殺隊に入ると決意した次の日、実弥はお館様へと爽籟を飛ばしそのことを伝えた。
そして返ってきた言葉は
“実弥が育て、立派な剣士となった風音と会えることを心待ちにしているよ”
だった。
つまり最終選別と言う鬼殺隊へ入隊希望をする者へ例外なく課せられる試験を、何がなんでも突破させて剣士になれるように導いてやってほしい。
と願われたようなものである。
最終選別は毎回死亡率が高い……そして鬼殺隊に入ってからも一般剣士の命が散ることなど日常茶飯事だ。
基本的に実弥の言うことを素直に受け入れ行動するが、たまに勢い余って先ほどのように暴走するので実弥の心配は尽きることがない。
「死なせねェし……俺も死なねェって約束してんだ。生半可な稽古をつけるつもりはさらさら……」
「実弥!任務ダ!ココカラ一番近イ山ニ子供ガ明朝鬼ニ攫ワレタトノ報告ガ上ガッタ!急ゲ!」
縁側から勢いよく飛び込んできたのは実弥の相棒である爽籟。
そして爽籟がもたらした任務に実弥の顔が強ばる。
「クソが!よりによってアイツが行った山かよ!爽籟、先に行って風音を探せ!見つけ次第先導してここまで連れて来い!」
全てを聞くまでもなく爽籟は入ってきた縁側から外に向かって飛び立ち、鬼が潜伏している山へと一目散に羽を動かしていった。
「不死川、俺も同行する。子供の捜索は俺に任せてお前は柊木を探せ」
爽籟と同じく実弥も小芭内の言葉を聞き終わる前に居間から姿を消し、出陣の準備を迅速に整えた。