第22章 想いと約束
「ハハッ……やっぱり驚くよね。本当は完治してから伺いたかったんだけど、それだと遅くなってしまうと思ってね。良かった、風音ちゃんも……えっと実弥君だったかな?二人とも元気そうで、本当に良かった」
目の前で微笑んでいるのは間違いなく、風音の父親の友達である男性だ。
その笑顔はまるで憑き物が落ちたかのように清々しく晴れやかであるが、そんな笑顔をかき消してしまうほどの体中の生々しい傷が、二人から笑顔と言葉を失わせた。
「これはね、俺の罪の証なんだ。娘の被害者の親族に……覚えている限りの方々に謝罪した結果なんだよ。こんなことで償えるわけないって分かってるけど、風音ちゃんの話を聞かせてもらって、最低限俺も何かしなくちゃって。だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ」
自身の傷の痛みからではなく二人の……特に風音の今にも涙を流してしまいそうな表情に男性は眉をひそめながら、手に持っていた物を差し出した。
それを受け取ったのは実弥。
「……有難くいただきます。取り敢えず中入って下さい。ちょうど俺らの仲間も来てるんですよ。飯も山ほどあるんで一緒に食べましょう。ほら、風音。案内するぞ」
ポンと頭を撫でてやると、ようやく風音の止まっていた時が動き出し、悲しげに揺らせている瞳を実弥へと向けた。
「うん。あの……先に手当てして差し上げてもいいかな?このままだと膿んで酷くなってしまう」
「当たり前だ。俺の許可なんか必要ねェよ。俺がいない方が話もしやすいだろ?宇髄と居間で待ってるから手当てしてやってくれ」
ずっと頭を撫でてくれている手の温かさ、心地よく響く優しい声音に風音の表情が次第に柔らかなものに変化していく。
それを見ていた男性の表情も穏やかなものへと変わった。
「風音ちゃんがよければ、実弥君にも功介の話を聞いてもらってはどうだろうか?気になっているだろうし、風音ちゃんのお父さんの友達とはいえ、男と長時間二人きりにしたくはないだろう」
さすが歳を重ねているだけのことはある。
実弥がひっそり心の中で思っていたことを見事に当てられたようで、気まずそうに頭をかき、風音を伴って屋敷の中へと足を向けてしまった。