第22章 想いと約束
「いや、こんな時期に約束なんて入れねぇって。風音は……そもそも一人で外に出してねぇから、約束しようにもなァ。まァ取り敢えず誰か確認してくる」
身に覚えのない来客。
しかし何処かで聞いたことがあるような声音に首を傾げ、頷き返してくれた天元を残して確認に向かおうとした時だった。
屋敷の奥、つまり台所から全力で走ってくる音が聞こえてきた。
この屋敷内には実弥、天元、風音しかいないので、もちろん台所から走ってきているのは風音に違いない。
何に反応し全力で門に向かっているのかは分からないが、慌てて転んではいけないと、実弥は今まさに目の前を通り過ぎようとした風音の肩を抱き寄せ、動きを止めさせた。
「何そんな慌ててんだよ。お前の客かァ?」
「実弥君!あの、お友達!前に言ってくれてたの、憶えてない?は、早くお迎えに行かないと!帰っちゃう!」
要領を得ない風音の言葉に、実弥の頭の中は更に疑問符で埋め尽くされる。
実弥がキョトンとしていても、興奮気味の風音の体はうずうずと動いており、今にも走り出してしまいそうなほどだ。
「友達?……分かった、分かったから落ち着け。ほら、迎えに行くぞ。……誰が来たんだか分かんねェけど」
肩に回した腕に力を入れて歩くよう促すと、風音は落ち着きを取り戻し、満面の笑みで頷いてゆっくり歩き出した。
「お友達だよ。私と実弥君を刀鍛冶の里に導いてくれた人」
風音の言葉によって実弥の中で記憶が一気に甦った。
聞き馴染みのない声ということは、聞いたことのある声だということ。
その声を聞いたのは随分前だったので記憶に埋もれていたが、記憶が引っ張りだされたことにより全てに合点がいった。
笑顔で歩み続ける風音の頭に頬を擦り寄せ、実弥はその人物を迎え入れるために、辿り着いた先にあった門に手を当てる。
「風音の父ちゃんの友達か。そうかィ、そりゃあ家に上がってもらわなきゃなんねェな。……開けるぞ?」
「うん!少し緊張する……はぁ……お待ちしていました!」
実弥が門を開けると同時に笑顔で元気に迎え入れようとしたのだが、その姿を目にした瞬間、二人の顔から笑顔が消え去った。