第22章 想いと約束
「嬉しい!天元さんの奥様たちも来て下さるなんて!本当なら天元さんにお世話になってる私が伺わなきゃならないのに……こうしちゃいられない!実弥君、天元さん!甘味買いに……行って……ダメだった。えーっと……うん!何か甘いの作ってくる!」
一人百面相を繰り広げる風音は二人の返事を聞く前に居間を飛びだし、家にあるもので甘味を作る場所、台所へと駆けていってしまった。
「アイツの表情筋どうなってんだァ?あんなコロコロ動くもんかよ……」
「ハハッ!俺の嫁に須磨っているだろ?須磨も嬢ちゃんみたいに表情すっげぇ変わんのよ。俺もたまに感心してんだが、未だに表情筋がどうなってんのかは分かんねェ!けど見てて飽きないだろ?」
笑顔になったかと思えばしょんぼりと眉を下げたので、慰めようと実弥が手を伸ばそうとすれば、決意を抱いたキリッとした表情となっていた。
思い出すだけで実弥の表情筋が混乱しそうになるが、天元の言う通り見ていて飽きることはない。
「あぁ……まァ飽きはしねェけど。それより嫁たちって三人全員来んのか?飯、これで足りねぇなら何か作んぞ?」
「そりゃあ三人全員来るに決まってんだろ?嫁たちにあれ見せんのもなぁ……って思って、俺一人先に出てきたんだ。悪ぃな、言うの忘れてた。飯は十分どころか、たぶん嫁たちも何か作って持ってくるだろうから……たぶん食いきれねぇ」
柱稽古が始まりしばらくした頃、ここに留まる剣士の数が思いの外多く、また長期間滞在していたので箱膳が足りなくなってしまった。
だからと言って大量に箱膳を仕入れても後で対処に困る……と二人で話し合った結果、居間に大きめの卓袱台を置くことに決めた。
つまり現在、居間には卓袱台が鎮座しており、その上には朝から二人で一緒に作ったたくさんの料理が並んでいる状態である。
まだ多少空間が余っているものの、天元の嫁たちが料理を持参してくれたら余裕はなくなる。
「余んのかァ……それなら箱に詰めとくから帰りに持って帰ってくれ。待ってろ、適当な箱を」
『ごめんください』
実弥が手頃な箱を台所に探しに行こうと踵を返したところで、聞き馴染みのない声が門の外側から聞こえてきた。
「今日、俺たち以外に客来る予定あったの?男の声だったろ?柱の奴らじゃなさそうだし……俺いて大丈夫か?」