第4章 お稽古と呼吸の技
風音が懸命に子供の捜索を開始し始めた頃、実弥と小芭内は話が済んだようで、誰がこんなに飲むのだと疑問に思うほど風音が用意した茶を啜っていた。
「お前が甘露寺をなァ……まぁ、アイツと買い物とか行く時に美味い店探しといてやるよ。あ"ぁ"……大盛りの美味い店って限定的過ぎだが、アイツ出掛けんの好きみてェだから喜んでついてくんだろうなァ」
数時間前に笑顔で薬草の調達に山へ赴いた風音を思い浮かべているであろう実弥の表情は、前に昼餉を共にした時と同じく穏やかで何となく嬉しそうに小芭内には映った。
それに気付いていない実弥にも、その実弥を好いているのにそのことに気付いていない風音に対しても、小芭内はむず痒い感覚に陥っている。
「俺が甘露寺を好きなのはいいとしてだな……不死川は柊木のことをどう思っている?あれだけ懐かれ大好きだと言われてるんだ、思うところはないのか?」
どうやら小芭内の要件とは、蜜璃との関係性を縮めるための方法の相談だったようだ。
同志であり柱の中でも特に気の合う小芭内の相談事となれば、自身が誰かと恋仲になったことがないとしても乗るほかなかった。
そうして大盛りの美味い店を探すことで相談事が終着したと思えば、今度は自分に話が飛んできた。
もちろん小芭内がむず痒い感覚を解消させるために飛ばしたなど気付いているはずもない。
「思うところだァ?風音は俺の弟子だぞ?それ以上でもそれ以下でもねェよ。俺のこと好きだとか言ってんのも親とかに子供が言ってるような感覚だろうしな。一々反応してたらキリねェんだわ」
「ならば柊木が他の男の惚気話を永遠と不死川に話したとしたらどうだ?」
……実弥の時間が止まった。
1分ほど待っても動くどころか返答すらない。
「……不死川、とりあえず茶を飲め。悪かった、お前たちは今のままの距離感が最適だと……思う。だがよく見ててやれよ?危機感が欠如している柊木は、下手をすれば悪い虫にすぐ騙されそうなのでな」
小芭内に茶を勧められようやく動き出した実弥は、ポカンと締りのない顔をして首を傾げた。