第22章 想いと約束
実弥の瞳に映る、天元が持参して来てくれたものを見なくては…… と風音は実弥の腕の中からそっと抜け、差し出してくれている物の前へと歩み寄っていった。
「これが……ありがとうございます。天元さん、私はこれで何の憂いもなく戦に赴けます」
そして天元の質問に対する答えは、やはり明言を避けたものしか返されなかった。
風音と行冥とお館様の三人で話をした時、約束事を取り交わしたからである。
まず第一に、実弥以外に開戦時の詳細を伝えないこと。
これは実弥にも固く約束をしてもらうように。
次に、実弥が日々行っている警備を疎かにしないように伝えること。
開戦時刻まで己の成すべきことをしっかり成し、万が一鬼が出たならばそちらを優先するように。
最後に、風音が鬼とされた場合、仲間たちに被害が出ないよう即対処すること。
行冥若しくは実弥が即斬首し、鬼に有利な状況を与えないように。
この三つの約束事が交わされたので、どんなに天元に話したいと風音が思っても話せないのだ。
そしてその約束事をきっちりのんだ実弥も話せないのは同じである。
天元には、
詳細を話すことは出来ないが、手を貸して貰えないだろうか
と前置きをした上での快諾だったので、天元も二人から返答が返ってくるとは思っていなかったようで、小さく溜め息を零しながら手のひらの物を風音の手に握らせた。
「俺はもう鬼殺隊じゃないが、嬢ちゃんたちのことを心配してんのは変わってねぇ。だからこれだけ答えてくれ。それを使って、誰かの命を守れんだよな?嬢ちゃんや不死川を死なせることになんねぇよな?」
いつも場の雰囲気を明るくしてくれる天元が、今は真剣な眼差しで風音を見つめている。
白く、かつては滑らかであったであろう、傷だらけの風音の手を握る天元の手が、僅かに震えているように見える。
これも風音と実弥を心から心配してくれているからこそ。
二人とも十分にそれを理解しているので、風音はもう片方の手で天元の手を包み込み、実弥は風音の隣りに立って、緑のリボンで彩られた頭をポンと撫でた。
「はい。これは間違いなく私たちを救ってくれるものです。どうか信じて、私たちの帰りをお待ちください」