第22章 想いと約束
「おーい……不死川ぁ、嬢ちゃん恥ずかしさのあまり倒れちまうぞー」
一人天元が待つくらいならば実弥とて気にしない。
しかし先ほどからやたらと筋肉の盛り上がった二足歩行の鼠が、物凄い勢いで行ったり来たりを繰り返す姿が視界の端に映るのは、気になって気になって仕方がない。
しかもしっかり実弥の顔を見ながら移動しているので、何度も筋肉モリモリの鼠と目が合うのだ……とてもいたたまれない。
「はァ……どんなことすりゃあ、こんな鼠に育つんだよ。…… 風音、落ち着くまでここで大人しくしとけ」
口付けを終えると、鼠たちは姿を消した。
冷やかしていたに違いない。
前代未聞、二足歩行のモリモリ鼠に世界中で初めて冷やかされたであろう実弥は風音の顔を胸元に押し付け、僅かに顔を後ろに向けて天元の姿を確認する。
そこには何故か誇らしげな表情をした天元の姿があった。
「そりゃお前、毎日腕立て腹筋背筋させるんだよ!させるっつっても、コイツらも好きでやってるみたいだがな!てか不死川、そんな見せ付けなくても、誰も嬢ちゃんに手ぇ出さねぇよ?俺は可愛い嫁が三人もいるし、他の柱の奴らも嬢ちゃんが不死川にぞっこんだって知ってるからね?」
「鼠が基礎鍛錬ねェ……まァいいわ。はァ……柱のヤツらがコイツに恋慕してねェなんて分かってんだよ。お前がいっつも邪魔しやがるから接吻しただけだ」
(ふーん、情報通り時透の胸の内は気付いてない……と。ま、部外者の俺が口挟むとこじゃねぇわな)
どこからどのようにして集めた情報なのか、天元は無一郎の胸の内を知っているらしい。
しかし人の心を無闇矢鱈と踏み荒らすのは良くないと、変わらず風音を胸の中におさめている実弥へ、いつも通りの笑顔を向けるだけに留めた。
「仲がいいようで兄ちゃん嬉しいよ。それよりだ……嬢ちゃんと不死川から頼まれてたもん持ってきたぜ。何回か試してっから、安心して使ってくれ。で、これってもしかしなくても、開戦の時に使うんだよな?」
草履を脱ぎ居間に入った天元は二人が作った料理の前にストンと腰を下ろし、袂から手のひらに乗るくらいの黒い何かを取り出して二人へと差し出す。
丸く黒い何か……としか傍目には分からないものだが、この時期に風音と実弥が依頼するくらいのものだ、開戦時に関わるものに違いないのだろう。