第22章 想いと約束
(そう言やァ、今回特にって訳じゃなく、初めっからコイツに対して距離近かったなァ。風音の跳ねっ返りは特有のもんとして……鬼に対して挑発するとことか似てっから、親近感でも湧いたか?)
しかし実弥は基本的に何とか沙汰に鈍感なので気付かない。
もちろん実弥以外にそういった経験のない風音も、無一郎の真意に気付いていない。
どちらも気付かないので、二人の雰囲気が変わることなく会話が続き、その話が一段落する頃に不死川邸へと辿り着いた。
二人が無一郎の真意に気付かぬままであっても時は過ぎる。
風音の稽古で行き詰まっていた玄弥に合格を言い渡して送り出し、しのぶたちとの研究に顔を出した時は医療技術を教えてもらった。
そして決戦まであと数日に迫る頃には剣士たちの姿が不死川邸からなくなり、ガランとした屋敷に、協力を要請した天元が今日赴いてくれることになっている。
「天元さんって食べ物何が好きなのかな?!うーん……あ、そう言えば前に捌きたてのふぐ刺しを持って来てくれてたような……でも河豚は毒があるから……簡単に手に入らない!」
「あ"ぁ"、そう言やァふぐ刺し好きだっつってたなァ。……てか河豚って毒あんのかよ?!そんな危ねェもん、魚屋に売ってないだろ」
と、協力を要請し、それを理由も聞かずに快諾してくれた天元をもてなそうと準備を進めているが、天元の好きな食べ物が特殊過ぎててんやわんやな状態である。
「だよねぇ……薬代の代わりに河豚貰って捌いたことあるから、河豚が手に入ればどうにかなるんだけど」
「……やめとけェ。毒もってる魚なんぞお前に捌かせて堪るかァ。てか別に食事会じゃねェんだし、こんだけ用意してりゃ十分だろ」
決戦を数日後に控えているにも関わらず緩やかな空気を醸し出しているが、それは二人が話し合って決めたこと。
二人でたくさんの料理を作り、他愛のない会話をする。
先を見ているといえど、決戦で何が起こるかは未知の領域な部分が多い。
それならば気を張りつめて過ごして神経をすり減らすより、決戦を万全の状態で迎えられるよう、いつも通りに過ごそうということになったのだ。
ただ、決戦はいつなのかと気を揉んでいるであろう他の柱たちに、決戦の詳しい日時を伝えられない状況は風音の中で罪悪感として残っている。