第22章 想いと約束
「君たちのせいで風音ちゃんは不自由な生活を強いられてる。君たちみたいな弱っちい目玉のせいでだよ?存在そのものが醜くて吐き気がする。せめて苦しんで消えてよ」
自邸を飛び出して僅か数分後、無一郎は見せてもらった光景をもとに目玉の駆逐に精を出していた。
もちろん街にいる鬼の分身を一つ残らず殲滅することは叶わない。
しかし風音が負い目を感じてしまった鬼の分身は、市井の人々に気付かれぬよう、日輪刀で斬りつけてから日に炙った。
「早く地獄に行ってくれないかな?って心から思うよ。ただでさえモヤモヤしてるんだから、これ以上俺を苛立たせないで」
聞こえているのかいないのかは分からない。
しかし無一郎にとってはどちらでも良かった。
ただ小さなことで気に病み、実弥によってその痛みを癒す風音の憂いが払えるならば、どちらとて気にならないのだ。
「俺じゃあ、あの子を笑顔にさせてやれない。それならせめて、憂いだけでも取り除いてあげたいんだ」
ここは街中の横路地。
もちろん人通りは皆無で無一郎の言葉は誰も聞いていない。
聞いているとすれば目の前でチリとして消えゆく目玉かその本体だが、ほとんどチリと化しているのだ。
恐らく誰にも無一郎の言葉は届いていないだろう。
(不死川さんが側にいるからこそ、今の風音ちゃんなんだろうな。はぁ……不死川さんって実は包容力すっごいし……勝てる気がしないや)
二人の前では口に出来ない。
風の噂では、実弥の前で風音に勢いに任せて思いの丈を伝えた剣士がいたとのことだが、やはり風音は一寸たりともそれに靡かなかったという。
それを直に聞いた実弥に至っては、その剣士が思いを打ち明けた数分後に公開接吻を行ったらしい。
風音も風音で実弥の行動を拒むことなく受け入れたらしいことから、やはり風音が心から慕い全身全霊をかけて求めるのは実弥だということを示している。
「……考えても仕方ないか!さてと、せめてあと数時間は二人に俺の家に居てもらわなきゃ!」
少し沈んでいた無一郎の表情は今や笑顔となった。
鬼の分身がチリとなり消え行くまで見届けたあと、二人が待つ自邸へと足を動かした。