第22章 想いと約束
「実弥君、もしかして時透さん……目玉を倒しに行ってくれたのかな?お昼間と言えど一人じゃ危ないよ!私も」
飛び出そうと体を前へと動かそうとしたが、一歩足を踏み出したところでピタリと止まり微動打にしない。
それもそのはず、日輪刀を抱えていない方の手は実弥によってしっかり握られており、石像宜しくその場から動いていないからだ。
しかしながら石像といってもお地蔵様のように穏やかな表情であるわけがなく、どちらかというと般若像の様相である。
「おいコラ、一人で時透の後を追いかけようとしてなかっただろうなァ?俺の日輪刀持ったままでよォ……落ち着かねェか!」
ピシャリと雷を落とされてしまった。
それと同時に風音の体がピクッと跳ね上がり、力を入れていた足から力を抜き……恐る恐る実弥を見上げて再び体を跳ねさせた。
「ひ、一人でなんて追いかけようと……してましたごめんなさい。時透さんが心配で、気が付けば体が勝手に動いてました。……すみません」
久しく見ていなかった般若の様相に風音しょんぼり。
実弥は別にそこまで怒っているわけではない。
無一郎に風音を託された時点でこのようになる未来を予測していたし、何より自分勝手な理由や我儘で風音が飛び出そうとしたわけではないと分かっているからだ。
般若の様相になったのは反射的なもの。
しょんぼり落ち込む風音を見ていると自然と表情が緩まっていき、柔らかな頬に手を当てて自分の顔を見るよう促す頃には穏やかなものへと変化していた。
「あんな芥なんぞに時透がやられるわけねェだろ?今は昼間で鬼も大々的に出てきやしねェから、時透信じて待っとけ。全部は無理だろうが、ほぼ掃討して帰ってくるはずだ」
実弥の言葉に風音の記憶から思い起こされたことがあった。
無一郎は剣を握って僅か二ヶ月で柱まで上り詰めた天才剣士。
本人が努力家なのも然る事乍ら、生まれ持った剣士としての才能は他の追随を許さぬものである。
今はまだ柱歴の長い者たちとの力量に差はあるかもしれないが、鬼の分身のような……しかも攻撃手段を持ち合わせていないであろう目玉に傷一つ付けられるわけがないのだ。