第4章 お稽古と呼吸の技
実弥の屋敷がある街はそれなりに栄えていると言えど、街を出て少し歩けば自然が広がっている。
秋が終わりを迎えかけた現在、山の中の地面は色とりどりの落ち葉で彩られているので、見ているだけで風音の気持ちを弾ませた。
それは山の中に入って数時間経過しても継続しており、薬となる葉や根っこ、実を持参した袋に詰め込んだことにより何だったら増長している。
「大収穫!あと一回くらいここに来れば一冬はどうにか越せそう。あとは綺麗な落ち葉を拾って実弥さんに見せてあげよう。……落ち葉に興味はない……あれ?子供の泣き声……がするような?」
風が木々の隙間を通る音にも聞こえそうなほど、かすかに小さな子供が泣いている声が風音の鼓膜を震わせた。
「こんな山の中に子供?両親とはぐれちゃったとか……?とりあえず探さなきゃ!」
重くなった袋はその場に待機させ声がするほうに急ぎ足を向けるも、幼い子供の姿をなかなか見つけられず風音に焦りが出てきた。
まだ日は昇っている。
しかし寒くなりつつあるこの季節は日が沈むのも早くなり、あと1時間もすれば夕日に変わってしまうだろう。
「早く見つけてあげないと……日が暮れたら鬼が出るかもしれない。早く……」
何度か大きな声で出てくるよう促しても出てくる気配がないので、草を掻き分け泣き声の発生源付近をくまなく探していると、風音の視界の端に小さな足が映りこんだ。
急いでそちらに全意識を集中させ草や枝を手で取り除いて視界を開けて……安堵のため息を零した。
「見付けるの遅くなってごめんね。もう大丈夫、私と一緒に山を下りよう?立てる?」
小さな体で必死に助けを求め泣き続けた子供は突然姿を見せた風音に驚き固まっていたが、柔らかな笑顔に緊張を解き優しい温かさを求めて広げられた腕の中に飛び込んで行った。
「一人で心細かったよね。さ、抱っこしてあげるから街に行こっか」
ギュッとしがみつく子供……五歳にも満たないであろう男の子を抱き締め返し抱え上げるも、その子の言葉に今度は風音が動きを止める。
「ここから出れないの。あの穴から離れられなくて……いっぱい歩いてもここに戻っちゃう」
そんな変な現象を起こせるモノなど一つしか当てはまらない。
「ここ……鬼の変な術の効果範囲なの?」