第22章 想いと約束
あれから一時間後。
風音はかつてないほどに水で喉を懸命に潤している。
それはひとえに無一郎の稽古によって、隊服がびしょ濡れになるほどに汗をかいたからだ。
「あんま急いで飲んでむせんなよ。ほら、ゆっくり飲め。俺の水もやるから焦んなァ。……あぁ、その前にちょっと口開けろ」
無一郎の稽古は高速で移動しながら攻撃する手を緩めないようにするもの。
聞いただけだと実弥の稽古と似ているように思えるが、実際に受けると似て非なるものだった。
特に風音は速度と跳躍を得意としているものの、持久力は心許ないと自覚していた。
そんな風音にとって無一郎の稽古は有難くも厳しい稽古と相成り、現在は実弥に労ってもらっているところである。
実弥から水の入った竹筒を受け取りながら、返事を出来ないながらも口を開き待つこと数秒。
隊服のポケットをゴソゴソする実弥を首を傾げていると、小さな容器を取り出して中身を摘み……その指を風音と口へと突っ込んできた。
(ーーっ?!?!……あ、お塩だ。わぁ、お塩だけなのに美味しい)
「前に胡蝶が汗かいたら水だけじゃなく塩も口にしろって言ってた。美味く感じるってことは塩が体に足りてねェんだと。あんま塩ばっかりも良くねェらしいから……指離せェ……水飲まなきゃ……」
「不死川さん、何してるの?」
スポン
と風音の口から実弥の指が引き抜かれた。
ちなみに顔は真っ赤である。
「……塩。汗、凄かった。水以外……塩も必要」
「片言になってますよ?」
実弥と無一郎が静かに遣り取りを行っている隙に、顔を赤らめる余裕すらない風音は頂いた水を急いで口の中に流し込んだ。
無一郎は風音の稽古を終えた後、その稽古を戦々恐々としながら見学していた剣士たちへと稽古をつけに向かった……額に血管を浮き上がらせながら。
何でもその理由は
『何週間もここにいる癖に呑気に見学?柱同士の稽古を見学して学ぶ前に、先にすることあるんじゃないの?毎日言ってるよね?』
ということで、無一郎がいつも言っている何か。
恐らく打ち込みであったり素振りであったりを剣士たちが怠ったが故に、怒り心頭で手加減容赦なしの稽古を付けにいっていたのだ。