第22章 想いと約束
「…… 風音ちゃん、俺の稽古受ける意味ある?風の呼吸って速度と跳躍力が特徴で、夙の呼吸も同じでしょ?」
「あります!確かに時透さんの言う通り、夙は速度と跳躍力が特徴の呼吸ですが、私の速度や跳躍力は実弥君に及びません!そして……時透さんにも及びませんから!お稽古に混ぜてください!」
稽古を受けるか否か。
その遣り取りを実弥は少し離れた場所に腰を落ち着かせながら、かれこれ三回くらい眺めている。
風音が稽古に混ざることを渋る無一郎の表情は、何となく楽しんでいるように見えるので、恐らく一生懸命に稽古に混ざらせてくれと懇願する風音の反応を楽しんでいるものと思われる。
楽しまれていることに気付いていない風音は渋られることが悲しくなってきたのか、力説しながらも眉が悲しげに下がってきてしまった。
そんな風音が少し可哀想に見え、実弥は小さく溜め息を零して二人に歩み寄る。
「時透ー、あんま虐めてやんなァ。コイツ、そろそろ本気でお前に嫌がられてんだって勘違いしちまうぞ」
「だってすごく一生懸命で面白……可愛かったから。いいね、不死川さん。こんなに感情豊かな子と一緒にいられたら楽しいでしょ?」
「お前本音隠す気全くねェな。まァ……楽しいってか飽きることはねェけど」
二人の遣り取りに置いてけぼりをくらった風音はキョトン。
先ほどまで一生懸命に無一郎に懇願していたので、どうやら何もかも全てがついていけてないようである。
「あ"ぁ"……ほら見ろォ、完全に何がどうなってんのか分かんねェって顔なっちまってんじゃねェかァ。風音、時透はお前の反応が面白くて稽古必要ないって言ってただけだ」
「あ!そうだったんだ!よかったぁ……時透さんに嫌われちゃったのかと思って、どうしようって考えてたの。えっと、嫌われてません……よね?」
実弥にポンと頭を撫でられる風音はまだ不安なようで、眉を下げたまま無一郎に問う。
……その表情が構いたくなってしまうのに。
と思いながらも、無一郎はこれ以上構うことをやめ、ニコリと笑顔を向けて大きく頷いた。
「嫌ってなんかないに決まってるでしょ!ごめんね、ビックリさせちゃって。さぁ、風音ちゃん、稽古始めよっか!」