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涼風の残響【鬼滅の刃】

第22章 想いと約束


二人が時透邸へと辿り着いたのは昼過ぎ。

無一郎の稽古を受けさせてもらう前に、風音は実弥に指示され、無一郎に与えてもらった部屋で身なりを整えていた。

「身なり……整えるって何すればいいんだろ?隊服は既に着てるし、髪の毛でも結い直しておこう……かな?」

無一郎が快く与えてくれた部屋へ、実弥にペイっと放り込まれて数分。
身なりを整えとけと言われたものの、既にいつでも稽古が出来る状態なので、手持ち無沙汰で立ち尽くしていた。

しかし実弥の指示に背くなど考えつくことすらない風音はどうにか動き出し、畳に腰を下ろして髪をパサリと背中に流す。

「簪……花街での任務を無事に終わらせたご褒美に買ってもらった簪。なんだか随分前のことみたい。フフッ、それにしても本当に可愛い!」

手に柔い力で握られているのは、緑のリボンがあしらわれた実弥からの贈り物である簪。
贈ってもらった日から様々なことが起こり、随分と前の事のように思えるが、そんなに月日は経過していない。

「ずっと眺めていたいけど、お稽古の時間を削れない!今日眠る前に存分に眺めてから……」

一つに纏められるほどに長くなった髪をヒョイと両手で掻きあげたと同時に、ふわっと優しい衝撃と暖かさが背中に広がった。
誰かなど考えるまでもない、風音は髪から手を離し、胸元で交差ささせ抱き寄せてくれている腕に手を添えた。

「実弥君の暖かさって、どんな時でも和んじゃう。ね、どうしたの?」

後ろを振り返るまでもなく実弥の存在を認識した風音に小さく笑みを零し、自身より遥かに華奢な肩に顔を預ける。

「何でもねェよ……って言いたいとこだが。風音、お前はいっつも先走り過ぎなんだよ。予知の力、お前じゃなくて俺に移せたらどんなによかったかって心から思う」

「私はね、この力が他の誰でもなく、私にだけ扱える力でよかったって心から思ってるよ。でも……実弥君の気持ちは凄く嬉しい。心配してくれてありがとう」

常々、風音の力が自分に譲渡出来るならさせてやりたい。
自由に外を出歩かせてやり、山にでも野にでも好きに赴かせ大好きな薬草摘みをさせてやりたいと思っていたが、今日、風音の提案を耳にして、実弥はより一層強くそう思った。
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