第4章 お稽古と呼吸の技
「何だァ?お前、それって稽古で扱かれてるから動悸止まんねェだけだろ?」
二人で首を傾げだしたので今日は実弥の疑問が解けることはないだろう。
「不死川、お前……本気で分かっていない……ようだな。それより勝手に入ってすまない。門が僅かに開いていたので入ってきた」
門に意識を向けていなかった二人の目の前に現れたのは小芭内。
「伊黒か。構わねェよ、話し込んでて気付かなかったのはこっちだからな。どうしたァ?何かあったのか?」
特に二人が会う約束をしていたということではないようだ。
そんな突然の来訪を果たした小芭内は首を左右に振って、何でもないのだと示した。
「……いや、急ぎではないから今日は遠慮しておく。取り込み中に邪魔して悪かった。俺は」
「待ってください!実弥さんにご用事ですよね?ちょうどお稽古も一段落したところでしたので、私が席を外します。ちょうど薬草を探しに行きたいと思ってたんです。日が沈むまでには帰ります、伊黒さん、ゆっくりしていってくださいね」
そそくさと立ち上がり頭を下げる風音の手首を、実弥は慌てて握り締めて動きを止めさせた。
「お前……山ん中行くなら日が高いうちに切り上げろよ。あとあんま奥に入りすぎんな、分かったかァ?」
まるで親のように言い聞かせてくる実弥に煩わしさを一切感じていない風音は、それさえも嬉しいと言わんばかりの笑顔で首を縦に振った。
「はい!近くのお店を覗いてから、あの一番近い山に行ってきます!薬草の宝庫でいるだけで楽しいんです!実弥さんも伊黒さんも、今度一緒に行きましょうね!」
「あ……あぁ。きっと甘露寺を誘えば喜んでくれるはずだ。その時は甘露寺も誘ってやってくれ」
薬草の宝庫ならば喜ぶのは蜜璃ではなくしのぶのような気もするが、そんなことに気付くなずのない風音は一段と顔を綻ばせる。
「もちろんです!では今度こそ行ってきます。お茶を居間に用意しておきますね」
十分後、縁側に座る二人に見送られ、大きな袋を肩に掛けた風音は笑顔で手を振り屋敷を後にした。