第22章 想いと約束
「私はお館様にお呼びいただいたのだ。邪魔しても構わないか?」
行冥の返答に実弥の体がピクリと反応した。
お館様に今日、風音と共に呼ばれるということは、つまりそう言うことだからだ。
どうしようもなく歯痒い現実に詰め寄りそうになったが、目の前にいるのは実弥が尊敬して止まない行冥と、今にも零れ落ちそうな程に瞳に涙を溜めた風音。
今しなくてはいけないことは当たり散らすことではなく、行冥を招き入れて風音を落ち着かせることだと、深呼吸をしてから頷き返し、風音には手を差し伸べた。
「柊木、不死川が呼んでくれている。側に行ってきなさい」
「悲鳴嶼さん……はい」
涙を流してなるものか、まるでそう言うかのようにゴシゴシと腕で目元を拭うと、弱々しいながらも笑みを浮かべて実弥に歩み寄り、差し伸べてくれている手を取って腰を落ち着けた。
「ったく、何で泣きそうになってんだよ。変なこと言って悲鳴嶼さんに叱られたかァ?」
「ううん。叱られてないよ。少し注意していただいたけど……でもそれで泣きそうになったんじゃなくて……お館様や悲鳴嶼さんが優し過ぎてね……私、どうしても力になりたくて……」
結局核心に迫ることが出来ないまま、風音はついに涙をポロポロと溢れさせてしまった。
今無理矢理にでも問い質すことは何となく憚られ、頭を抱え込んでやり、実弥と風音の前に腰を下ろしている行冥に視線を移す。
「相変わらず落ち着きないヤツですみません。コイツ、何かやらかしたんですよね?俺が聞いても問題ないなら教えてください」
今まで……と言うより、ここに風音がいなければ食ってかかってきていたであろう実弥が、風音がいることによって冷静であろうとしている。
それは元師範としての矜恃か何なのかは行冥とて判断出来ないが、どんな理由であれ成長垣間見える実弥の姿が嬉しく、僅かに頬を弛めて言葉を返した。
「詳しく話す前に条件がある。柊木からは既に不死川と約束していると聞いているが、念の為にもう一度確認させてもらう。不死川、お館様やこの子が何をしようと、合図があるまで側に駆け付けないと約束出来るか?」