第22章 想いと約束
(楓ちゃんによると、このお部屋……だよね?中にはお館様がいらっしゃる。……よし、シャキッと行かなきゃ!)
実弥に言われた言葉を思い起こし、緊張で震える体を廊下に落ち着けて深呼吸を一つ。
「お館様、柊木風音でございます!」
そして口から出てきたのは自分が思っていたより大きな声。
まさかこんなに大きな声が出てくるなど風音本人も想定外だったようで、顔を赤くしてお館様からの返答を待った。
「フフッ、今日も元気そうだね。風音、お入り」
笑われてしまった。
……笑われてしまったが、お館様の気持ちをほんの少しでも和らげられたのであれば本望だと、風音は気を持ち直して襖の端に手をかける。
「はい!失礼致します!」
顔を赤らめたまま襖を開けて瞳に映し出されたのは、布団の上で上体を起こした状態のお館様とあと一人、行冥の姿だった。
お館様以外の人がいるとは思っていなかった風音は動きを止めるが、ハッと我に返って部屋へと入り、ずっと暖かく見守ってくれていた行冥の僅か後ろに腰を落ち着けた。
「お待たせ致しました。えっと……お館様、お久しぶりでございます。その……お館様のお身体を実弥君も案じて……おりました。私も柱の皆さんも……ですのでどうか……」
きちんとした挨拶の言葉はしっかり考えてきていた。
柱合会議が始まる際、柱一人が代表してあまね様へ挨拶していたように、実弥の分もしっかりお館様へ挨拶をするつもりだったのに、今のお館様の様子を見ると頭の中が真っ白になってしまった。
しっかりした挨拶の代わりに出てきたのは、たどたどしい挨拶と涙。
それほどまでにお館様の様態は風音の目から見ても悪化しているのだ。
「すまないね、風音。君が柱となった時も顔を出せず、ようやくこうして顔を合わせられたのに、不甲斐ない姿で。どうか泣かないでおくれ、もう私の目は光を失ってしまったけれど、私は風音の元気な笑顔が見たいんだ」
いつの日か同じようなことを言ってくれていた。
また笑顔を見せてほしい……と。
しのぶでも治すことの出来ない、鬼舞辻無惨との因縁による呪いのようなものは風音の知識でどうにかなるはずがない。
それならばせめて笑顔をと、風音な涙を拭って、どうにかこうにか笑って見せた。