第22章 想いと約束
そしてその笑顔のまま音が向かった場所へと顔を向けると、遠慮気味に僅かに開いた門からひょっこりと風音の顔が出てきた。
「やっぱり実弥君と杏寿郎さんだった!おかえりなさい!お茶と手拭いを持って来ました!」
手には薬缶と手拭い。
しかし出来る限り外に出てはいけないと理解している風音は、飛び出してしまいそうな体をしっかり門の内に留まらせ、二人の到着を笑顔で待ち続けている。
そんな風音を待たせ続けるのが憚られた実弥は、杏寿郎もいるこの状況ならばと手招きをして呼んでやった。
すると二人の予想通り嬉しそうにパッと顔を更に明るくし、片手に手拭い、もう片方の手に薬缶をしっかり握り締めたまま走り寄ってくる。
全速力で。
「すっげぇ勢い……」
「だが満面の笑みだぞ!」
凄い勢いで満面の笑みで二人の前に到着した風音の手から、二人がそれぞれ手拭いと薬缶を受け取ると、実弥の片方の手がお馴染みの温かさで包まれた。
「お疲れ様です!杏寿郎さん、先ほど剣士の皆さんもお稽古を終えて、今はお風呂をちょうだいしているはずです!実弥君、私はお稽古が終わってから、千寿郎さんとサツマイモのお饅頭とおはぎ作ったんだよ!」
憂いの片鱗すらないような笑顔を自分たちに振り撒きながらも、自分と杏寿郎とで話し方を変える風音に笑みを返し、永遠と楽しげにお話を続けそうな風音の手を引っ張って歩くように促す。
それに続き杏寿郎も笑顔のまま足を屋敷へと向けたので、道には夕日に照らされ長く伸びた影が三つ並んでいる。
「サツマイモの饅頭とおはぎかァ。稽古の後なのに、俺らの好きなもん作ってくれたのかよ?」
「うん!お稽古が思いの外早く終わったから。千寿郎さんね、お料理の手際すごくいいんだよ!私はお手伝いしてた感じになっちゃった」
「稽古は決して易しいものではなかっただろう?しかし俺たちももちろんだが、千寿郎も喜んでいるに違いない!いつも千寿郎一人に家のことを任せ切りになっているのでな、風音と共に甘味作りは楽しかったはずだ。ありがとう、風音」
思いもよらない杏寿郎の言葉に目を瞬かせたが、一瞬後には再び満面の笑みとなった。