第4章 お稽古と呼吸の技
実弥の真剣な眼差しに風音は少し考え、しょぼくれていた眉を上げてコクリと頷く。
「……分かりました!実弥さんに心配掛けたくないですし、私が実弥さんの立場なら同じことを絶対に思うので!感覚を切り離す方法を編み出さないとですね。今日から意識してみます!では早速……」
頭に手を置かれた状態で実弥に対して果敢にも今すぐ敢行しようと縁側に着いている手を握ろうとしたところで、頭に置かれている手の力が著しく強まった。
「痛いです!すみません、今からはやめときます!」
「分かりゃあいい。お前は本っ当に落ち着きねェなァ!俺の身にもなれっつったばっかだろうが。もうまるっきりの赤の他人じゃねェんだ、俺の胃を煩わせることは控えろ」
手の力が弱まると、最近では頻繁に見せてくれるようになった柔らかな笑顔となった。
その表情が何とも風音の胸を満たし、痛みから涙が滲んでいた瞳が柔らかく弧を描く。
「私、キリッとした実弥さんの表情もカッコよくて大好きですけど、今の笑顔が一番大好きです。早く鬼を倒して、ずっと実弥さんがその笑顔でいられるようにしたいです」
突然出てくる風音の好きという言葉にどう言う意味が込められているのか、未だに実弥は判断がつかずにいる。
始めは軽々しく言うなと指摘していたが、どうやら無闇矢鱈と誰にでも言っている様子は見られないので指摘するのをやめたものの、それはそれで複雑な心境である。
「……なァ、その好きっての何で他の奴には言わねェんだ?お前の中で取り決めかなんかあんのか?」
まさかそのような返答が返ってくると思っていなかった風音は、キョトンと瞳を瞬かせた後にニコリと微笑んで答えた。
「意識したことなかったですけど、私は実弥さんが大好きだから大好きって伝えてます。柱の方は皆さん大好きですけど、その好きと実弥さんに対する好きは……うーん、少し違うように感じるんですよね」
そう言って風音はまるで自分の胸に問い掛けるかのように手を当てて一考し、何か思いついたのかポツリと呟いた。
「実弥さんの側にいるとドキドキして幸せな気持ちになるんです。皆さんの側にいる時は幸せな気持ちになるけど、ドキドキはしなくて……何でしょうね?私もよく分かんないんです」