第22章 想いと約束
玄弥の言葉に風音は表情を綻ばせ、隣りに座っている実弥に視線を向けてみる。
すると不機嫌そうながらも頬を僅かに赤く染めていたので、これ以上何も言わずに玄弥へと向き直った。
「それでもこうして私がこの場に居られるのは、実弥君や柱の方々、玄弥さんたち剣士の皆さんが私を助け育てて下さったからです。感謝の気持ちを忘れず、精進しようと思います」
ニコニコと最後の一口を口に運んだ風音は箱膳を抱え上げ、そそくさと立ち上がる。
「出立の準備があと少しあるのでお先に失礼します。実弥君、皆さんはゆっくり食べていて下さい!サッちゃん、おいで」
機嫌良くぺこりと頭を下げサチを連れ、頷き返す実弥や剣士たちに笑みを残して居間を後にした。
残された剣士たちは自身に貸し与えて貰っている箱膳の上を見て身体を震わせる。
「柊木さん食うの早ぇ……俺なんてまだ半分以上残ってる」
「いやいや、柊木さんの量すっごい少なかったからね。何で?」
「……何でもクソも今日から手合わせと稽古あんだぞ?特に今日は煉獄んとこで手合わせと稽古だァ。食い過ぎりゃ吐いちまうだろうが」
剣士たちのヒソヒソ声に反応した実弥の朝餉の量はいつも通り。
「兄ちゃんは吐かないの?」
「あ"ぁ"?俺が手合わせと稽古くれぇで吐いてたまっか」
玄弥はもちろん、この中で杏寿郎の稽古を受けた剣士たちの顔が一気にげっそりとやつれた。
……実弥の稽古も厳しく辛いものであるが、どうやら杏寿郎の稽古も実弥の稽古に負けず劣らず厳しく辛いものだったのだろう。
それを事も無げにやってのけてしまうであろう実弥にげっそり。
「それよりお前ら、俺と風音がいねぇからって稽古さぼんじゃねぇぞ。腹筋背筋腕立て、ここら一体の走り込みに素振り。回数は紙に書いて残してってやる。……誤魔化そうが何しようがテメェらの勝手だが、そんなことすりゃあ鬼に殺されると思っとけ」
脅されていると思いきや自分たちを思っての言葉に、その場の全員の表情が生暖かなものとなった。
そして実弥によってニヤケ面を指摘され怒鳴られ、稽古を増やされた剣士たちが涙を飲むことになったのは僅か数秒後のこと。