第22章 想いと約束
風音が色気を出さずスヤスヤと体を休めること数日。
不死川邸にて柱稽古を受ける剣士たちの人数が落ち着いてきた本日、風音と実弥は三日間の強行手合わせ兼稽古に挑もうとしている。
「玄弥ァ……お前いつまで俺ん家にいるつもりだァ?他の奴らの稽古全部終わってんだろうなァ?」
そして旅立ちを控えた朝、共に朝餉を剣士たちと食しているのだが、そこに混じっている玄弥に実弥はジト目。
しかし玄弥の表情は自信満々の笑顔である。
「もちろん終わってるよ!後は風音の稽古を突破出来れば全部終わり。兄ちゃんのはどうにか突破出来たんだけど、風音を捕まえんの難しいんだよ」
人には得手不得手がある。
それに風音の稽古は頭の中に先の光景を強制的に頭の中に流しこまれながら追いかけっこをするので、柱稽古の中でも異質で特殊なものだ。
早く慣れる者もいるが、玄弥のように中々慣れることが出来ず、こうして何日も足止めを食らう者も少なくない。
実弥や柱たちは脅威の適応力で即座に対応出来たが、剣士たち全員がそれと同じことを出来るかと聞かれると否である。
……何分、自身の特異能力であるにも関わらず、風音自身も慣れるまでに時間を要したのだから。
「玄弥さんもあと少しで合格出来そうだよ?反応速度すごくいいから、何回か私の手をかすってるもの。私より慣れるの早い気がします」
毎日の稽古を頭に巡らせ玄弥の動きを確認してみても、やはり玄弥の反応速度は特筆しており風音が焦ることもしばしばあった。
途中からヒラヒラと翻る羽織を脱ごうかな……と考えることもあったが、実弥から送られた着物と同じ柄の羽織を脱ぐなんて愚の骨頂だと、稽古中脱ぐことをしなかった。
それはそうと……手をかすめる、羽織にあと少しで手が届きそうな玄弥は風音の評価に嬉しそうに更に笑みを深め、手に持っていた茶碗を箱膳の上に戻した。
「そんなことないよ。他の剣士が兄ちゃんに言われたって言ってたんだ、柱になるからにはそれなりの理由があるって。何人もの剣士たちの先を見ながら動けるなんて、普通は出来ないことだと思うよ?」