第22章 想いと約束
「お前、何処で挑発なんて覚えてきた?」
「え?どこだろ?鬼に対して思ったことを言ってるだけだからよく分かんない。……これから言わないように気を付けてみる。聞いてる人はいい気持ちならないよね」
疑問に思っただけで特に咎めるつもりはなかった。
ただ『鬼の戯言聞く前に頸斬っちまえ』と言い聞かせ育ててきたので、いつの間に覚えたのかと思っただけだった。
それなのに実弥が不快に感じたから疑問を呈してきたのだと、勝手に勘違いしてシュンとなってしまった。
人の感情に過敏に反応するくせに鬼に挑発などをやってのける風音の頭をワシワシと掻き混ぜる。
「鬼に挑発したって誰も嫌な気になんねェから好きにしろよ。むしろ時透なら一緒に挑発しそうだしなァ。人に対してももっとそれくらい好きに感情出して……たな」
「出してるよ!実弥君や柱の方々、鬼殺隊の皆さんは優しくしてくれるから挑発なんて出ないだけ。それに実弥君に対してこれ以上好きに感情をさらけ出すと、ずっと大好きって言い続けることになっちゃう」
無事に笑顔に戻った。
戻ったのだが実弥としては人前でこれ以上風音からの感情をさらけ出されると困ってしまう。
慣れてきたとはいえ元々恥ずかしがり屋な性格なので、柱の前のみならず剣士たちの前で突如として紡ぎ出される愛情表情たっぷりの言葉は、実弥の顔に一気に血液を巡らせてしまうのだ。
「まだ言い足りてなかったのかよ。言うなら二人で寝る時に色気追加して言ってくれねェかァ?」
「色気……分かった!じゃあさっそく今日頑張ってみるね!まずは浴衣を脱ぐところ……から?」
色気の出し方を事前に確認してくる当り、色気から遠ざかっているとは気付いていないようだ。
かと言って自分のために頑張ろうとしてくれる姿勢はやはり嬉しく、実弥は頭に置いたままだった手で頬を軽く摘む。
「俺が暴走しちまっても問題ねェように、剣士らが居ねぇ時に頼む。アイツらが家にいる時は……大人しく体休めとけ。ほら、もう家着くんだから表情引き締めろ。緩々なっちまってんじゃねェか」
恥ずかしげに頬を赤く染めながらふわりと微笑む風音の背に手を当て、地獄の基礎鍛錬に励んでいるであろう剣士たちが待つ屋敷へと足を動かした。