第22章 想いと約束
優しい温かさに憎むべき鬼の分身のような目玉と遭遇してささくれだった気持ちが穏やかになっていく。
ふわふわと撫でてくれる大きな手、満面の笑みを向けながら柔らかく腕を包んでくれるしなやかな手に癒され、風音の瞳は緩やかな弧を描いた。
「荷物は持ってるからこのまま帰れるよ。蜜璃ちゃんや蜜璃ちゃんのご家族、それに剣士の方々にご迷惑は掛けられません。もう少し蜜璃ちゃんとお話ししたかったけど、今日はお暇させてもらおうかな」
「悪ィな、甘露寺、騒がせちまって。他の柱と違ってお前は鬼殺隊と関わりない家族と住んでんだろ。万が一のことが起こった時に巻き込むわけにはいかねぇ。このままコイツ連れて帰らせてもらうわ」
蜜璃は鬼殺隊の剣士には珍しい、ごく一般の鬼殺と関わりを持たない家族と共に暮らしている。
屋敷の大きさなどからみるにご令嬢にあたると思われ、もしかすると護衛なども雇っているかもしれない。
だからと言って万が一鬼が出た際の対抗手段を持ち合わせているわけも無いので、ただでさえ鬼たちが動き出している今、危うい身の上の風音と共に実弥は甘露寺邸に身を置くことが出来ないのだ。
それに実弥の仲間であり友人でもある小芭内の想い人の蜜璃の側に居続けることは、何となく居心地が悪い。
「不死川さん優しいわ!私の家族の心配までしてくれてありがとうございます!家族は気にしないと思うけれど……無理に引き止めるのも良くないわよね」
名残惜しそうに……
蜜璃は無事に笑顔を取り戻した風音の体をギュッと抱き締めた。
相変わらず可愛らしく優しい蜜璃の体を風音も抱き締め返し、そのままの状態でさよならの挨拶をする。
「蜜璃ちゃん、そこかしこに目玉がいると思われます。どうかお気を付けて……何かあれば駆け付けるから、遠慮せずに頼って下さい。今度は総力戦前の柱合会議で会いましょう。それまでお元気で」
少女同士の眩しくなるほどの抱擁を前に、実弥は何の口も挟むことなく、二人が……と言うより風音が満足するまでひたすら待ち続けた。
別れの挨拶が終息に要した時間、およそ二十分。