第4章 お稽古と呼吸の技
昨晩、予知能力の全容解明と向上を目的として実弥が任務に赴く前に風音は先を見た。
いつもは触り部分だけにして感覚の共有により風音に害が及ばないようにしていたが、それだといつまで経っても成長出来ないと風音に力説され渋々実弥が受け入れた結果、未来で実弥が鬼に腕を傷付けられ風音に痛みと苦痛をもたらしたのだ。
「俺の身にもなってくれねェかァ?お前が痛みに顔を歪ませる姿なんざいい気分にならねェだろ。自分が怪我する方がどんだけ気が楽か……」
力なく縁側に体を投げ出した実弥に困ったように眉を下げ、既に痛みのない右腕をさすりながらポツリと呟いた。
「痛みは見ている間だけです。怪我をすれば治るまで痛いじゃないですか。そのうち……柱の方や剣士の方の痛みも私が取り除きたい。鬼の変な術を先に伝え、怪我を未然に防げるなら嬉しい限りです」
風音はあまり自分を大切にしない。
過去の村人の仕打ちが風音の自己肯定感を著しく低くしてしまったからだろうが、そんな風音の言葉を耳にする度……実弥の胸中は痛みと村人への怒りで満たされてしまう。
「風音、その考え方どうにかなんねェか?誰かの力になりたいって気持ちは伝わるが、これから他の奴の先を見るとして……少なくとも柱の奴らは同じこと思うだろうよ。誰が好き好んで自己犠牲精神旺盛なお前に痛てぇ思いさせて怪我回避したいと思うってんだァ?」
人のために鬼狩りを生業として選んだ人たち……それも柱まで登り詰めた者たちにとって、風音の今の考え方は歓迎できる在り方ではないだろう。
「それは……そうかもしれないけれど。家族以外で初めて出来た失いたくない人たちだから……何をしてでも失いたくなくて……」
シュンと項垂れ爽籟を撫でていた手元に視線を落とす。
いつもなら風音を庇う爽籟が口を挟まないところを見ると、爽籟も少なからず実弥と同じようなことを思っていたということだ。
「はァ……別に怒っちゃいねェから泣きそうになんなァ。相手を思うあまり自分を蔑ろにすんなってことだ」
視線を手元から実弥に移ったことにより風音の戸惑い揺れる瞳を目に映した実弥は、起き上がって金の髪が目立ち始めた頭に手を置いた。