第1章 木枯らし
「こいつの母ちゃん殺したも同然な癖に偉い言いようだなァ!なんなら俺がてめぇをあの鬼の所に連れてってやろぉかァ!?それくらいすれば、てめぇもこいつとこいつの母ちゃんの気持ち分かんだろ!」
突然現れた上背のある青年の顔は怒りで満ち溢れており、風音を着き飛ばそうとした腕を掴む手の力はその怒りと伴うように強くなっていった。
「いきなり現れて何だ?!部外者が口出しすんな!」
「……このまま腕の骨砕いてやろうかァ!?あ"ぁ"!?女に手ぇ上げる奴に加減出来るほど俺は優しくねぇ……ぞ?」
いきり立っていた青年の言葉がいきなり力を無くした。
それは男の腕を掴んでいた青年の手に風音の手が添えられたからである。
「もう……いいんです。この人を傷付けてもお母さんは生き返らないし、何より貴方の手を汚させるわけにはいきません。巻き込んでしまってごめんなさい。私は大丈夫ですので、貴方は居るべき所へ戻って?きっと貴方の助けを必要としている人がいるから」
僅かに笑みを浮かべているはずなのに風音の表情は青年にとって哀しく映り、怒りに染まっていた胸の内が切ない痛みに塗り替えられていった。
「……だから女一人置いてけねぇって何度も言ってんだろうが。おら、戻んぞ。俺も一緒にお前の母ちゃん弔わせてくれ」
ぶっきらぼうな言葉遣いなのにその声音はひどく優しく風音の耳に響き、青年とは真逆に胸の内が温かく包まれた。
「ありがとうございます。では……よろしくお願い」
「ちょっと待て!あの化け物はどうした!?あれが居なければこの村は他の化け物に襲われるんだぞ!お前は大人しく化け物に」
尚も醜い言葉をかけながら風音の腕を掴もうとする男の手を青年は眉間に青筋を立てて払い落とした。
「鬼に騙されてんじゃねぇぞ、馬鹿が。ここらに鬼の気配なんてありゃしない。てめぇらはあの醜い鬼に騙されて力を付けるための糧を運ばされてたって訳だァ。分かったらこいつに今後一切関わんな。出来ねぇだろうが今までのてめぇらの罪を悔い改めろや」
風音にとっても衝撃的な言葉を紡ぐ青年は更に言葉を続ける。
「これからこいつに用があんなら俺を通せ。鬼殺隊 風柱 不死川 実弥をなァ!」
男が何か言葉を返そうと息を吸い込んだ時には、既に視界から2人の姿は消えていた。