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涼風の残響【鬼滅の刃】

第1章 木枯らし


そして風音は青年、実弥に抱えられながら肩越しに激しく移ろい変わる景色を呆然と眺めていた。
あの男の姿などもう数秒前には確認できなくなっている。

「おい、風音。なんでお前は全集中の呼吸 常中が使えんだ?」

「え?全集中の……何ですか?」

突然の質問に風音が首を傾げると、実弥は驚き目を見開いて動かしていた足を止めて片腕で抱え上げている風音の顔を覗き込む。

「何って……お前が今してるやつだァ。身体能力、他の奴らより高い自覚あんのか?」

「それはあります。お父さんに昔、こうすると時間すら忘れて動けるんだよって教えてもらったから……お薬を沢山作りたくて毎日練習していると、いつの間にか人並み以上の身体能力が身に付いてました」

全集中の呼吸 常中

それは鬼殺隊なる実弥のような者たちが集まる組織内でのみ知られ使用されるものである。
しかし一筋縄では身に付かないので扱える者は極一部の者だけだ。

「そう言えば俺が帯刀してても怖がる素振りすらなかったな。お前の父ちゃんは鬼殺隊だったのかァ?」

その質問にもやはり風音は無表情のまま首を傾げたが、何か思いついたように少し目を大きく開き返答する。

「鬼殺隊……は初耳ですが、お父さんも不思議な色の刀を持っていました。確か緑色の……貴方の刀と同じような刀。それにこの制服を纏って夜にお仕事だと言って鴉と一緒に家を空けていたような」

(鬼殺隊の隊士じゃねぇかよ!娘に何教えてんだァ!?んでそれを知らず薬作るために呼吸使いこなすこいつも……大概だがなァ)

とんでもない父をもつ風音もやはりとんでもない娘であって……実弥は片手で頭を掻き毟ってから、とりあえず風音が放り込まれていた屋敷に急いだ。

(どうするのが正解だ?柱の立場からすりゃあ、こいつを鬼殺隊に引き込むのが正解なんだろうが……そうなれば俺が育てんのかァ!?……はぁ、後で考えっか)

一人で考えても解決する問題ではないのでそれは諦め、実弥は大人しく運ばれ続ける風音に苦笑いを零しながら山道を駆け上がって屋敷へと急いだ。

風音にとって実弥の存在が木枯らしのように突然現れ、自分の環境を覆す存在になると気付かないまま。
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