第22章 想いと約束
実弥に姿を隠されるように移動した稽古場でまず第一に風音に待ち受けていたのは、実弥監視の元、蜜璃による地獄の柔軟だった。
地獄のと言っても普段から実弥と共に毎日柔軟を行っていたので、周りの剣士たちのように絶叫することはない。
「お前ら体硬ェなァ……ほら、背中押してやるからもう少し足開け」
特に体の柔軟性に問題なしと判断されたため、蜜璃は風音から離れて他の剣士の体を、半ば無理やりに引っ張り強制的に筋肉をほぐそうと試みだした。
そして初めは風音に変な視線を送る輩がいないか目を光らせていた実弥は、その心配はなさそうだと判断するや否や本来の面倒見の良さが発揮され、比較的優しく剣士たちの柔軟を手伝ってやっている。
「ぎゃあああ!甘露寺さ……股が……裂ける音したっ!ブチッて!」
「いだだだっ!不死川さん!痛い」
蜜璃による柔軟と実弥による柔軟の違いはこんな感じだ。
叫び声が響くのに違いはないが、やはり実弥の柔軟の方がほんの少し優しめである。
「そう言えば柔軟で実弥君に扱かれたことなかったかも。寄りかかられたりはしたけど、基本的に私の好きにさせてくれてたなぁ」
実弥に拾われた当初のガチガチに体の硬かった頃を思い出しても、柔軟や基礎鍛錬は思うようにさせてくれていた。
たまに基礎鍛錬の回数が追加されることがあったものの、手合わせや技の習得の際の稽古に比べると優しかったように風音は思えた。
こうも一人きりで柔軟に勤しんでいると、過去の実弥との鍛錬や稽古が思い起こされ、風音の顔が無意識のうちににやけ出す。
「好きにさせてくれるのも徹底的に扱かれたおすのも、結局実弥君が側にいてくれるから苦痛なんてないんだけどね。……そう言えば実弥君は私にお稽古付けるの面倒って思ったことぐぎゃ」
「お前は一人でも所構わず楽しそうだなァ。扱かれんの好きなら手伝ってやらァ。…………」
「………………」
悲鳴を上げるどころか呻き声さえも上がらない。
それもそのはず、日々の柔軟や今の柔軟で十分に解れた風音の体は、何の抵抗もなくペシャンと床に張り付いたからである。
「実弥君。これ、私にとってご褒美にしかなってない」